松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 いよいよ日本でラグビーワールドカップ2019が開幕しました。鍛え上げられた屈強な選手たちのパワフルでスピード感あふれるプレーは、多くのファンを魅了してやみません。しかし、その一方で常にからだとからだが激しく衝突し合うラグビーは、けがが多いスポーツの代表格。骨折や捻挫のみならず、ときに命に関わる重大な「脳しんとう」も起こります。日本臨床スポーツ医学会理事長の松本秀男医師が、ラグビー選手の命を守るスポーツドクターの活躍を紹介します。

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 スポーツにけがはつきものですが、なかでもラグビーでは、その闘志あふれるタックルやスクラムなどで選手同士が衝突や転倒をして、試合中に「脳しんとう」を起こすことがよくあります。昔は、試合中にグラウンドで選手が倒れると、やかんで顔に水をかけて意識を回復させるなんていうシーンをよく見かけました。

 しかし、それはじつはとても危険な行為。「脳しんとう」は、頭部への衝撃によって脳の活動に障害が出ている状態です。軽い場合は一時的なもので、意識を失ったり、前後の記憶がなかったり、ふらついたりしていても短時間のうちに元に戻りますが、ひどいと何日もめまい、耳鳴り、頭痛が続く場合や、深刻な脳の損傷が生じている場合もあります。脳しんとうが疑われたらすぐに選手はプレーから離れて医師の診断を受ける必要があります。

 最近では、脳しんとうに対する正しい認識が広がってきて、もはややかんが登場することはなくなりました。日本臨床スポーツ医学会が、一般の選手、コーチ、家族に向けて発表している「頭部外傷10か条の提言(第2版)」には、頭部外傷への対応法がわかりやすくまとめられていて参考になります。

頭部外傷10か条の提言
● 頭を強く打っていなくても安心はできない
● 意識消失がなくても脳振盪(のうしんとう)である
● どのようなときに脳神経外科を受診するか
● 搬送には厳重な注意が必要
● 意識障害から回復しても要注意
● 脳振盪後すぐにプレーに戻ってはいけない
● 繰り返し受傷することがないよう注意が必要
● 受診する医療機関を日頃から決めておこう
● 体調がすぐれない選手は練習や試合に参加させない
● 頭部外傷が多いスポーツでは脳のメディカルチェックを

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松本秀男

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松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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