その思いが結実して2年前、ハリウッドにショップをオープン。「TOIRO」という店名は十人十色。土鍋という一個の調理具があっても、十人いればそれぞれバックグラウンドが違って十個の違うものができるという意味でつけた。

「ロサンゼルスという町は色々な文化が集まっていて、こうでなければいけない!というものがなくて、色々な解釈の仕方があっていい。土鍋も同じ。使う人によってどんな風に使ってもいいし、どんな料理でもできる。だからTOIROにしよう、と」

 土鍋が広まるにつれて、武井さんの思いも伝わっていく。

「土鍋が生み出す、なべを囲む文化、これは日本の食文化を象徴する、いいものだと思うんですけど、これがアメリカですごく響いてるんです。アメリカのお客さんからたくさんメールをもらうんですが、『土鍋が私たちの生活を変えました!』と言ってくれたり、土鍋ライフに感動して『ウィスコンシン州(米・中西部)から家族みんなで来ました!』なんてお店に来てくれたりするんです。土鍋一つあれば、家族みんな忙しくてバラバラでも、いっしょに土鍋を囲めば簡単に料理が作れ、子どもだって参加して『次何入れる?』とかやって会話も生まれる。料理それ自体が楽しい。そういう食事の仕方、調理器具はアメリカにはないから新鮮に映るようなんです。土鍋はただの調理器具じゃなくて、文化であり、家族の絆をつなぐんです!」

 武井さんは「DONABEは世界共通語になる!」と確信していたそうだけど、土鍋そのものだけじゃなく、食文化としての土鍋が世界をつなぐことを夢見て、いや、そうなると確信している。

 Happy DONABE Life! 武井さんは今日も大好きな土鍋を世界に広めるために奔走している。(和田静香)

●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。