会社を設立するのもすべてたった一人でやって、「ネットで何が必要か?どこへ申請し、手続きしに行けばいいのか調べて、手探りでやりました。ビジネス・パートナーも投資してくれる人もいなくて、もう汗だくでした」という苦労もすべては土鍋のためだ。

「やっと物流だけを取り扱う会社を見つけて、コンテナで土鍋を運んでもらえることになったんです! 仕事を終えて家に帰ってから一人でコツコツとネット相手に格闘して、土鍋を販売するホームページも立ち上げました」

 ところが、うんともすんともなくて「オンラインショップにつながってないんじゃないか?って自分で注文してみたら、つながってました。そこで初めて、そうか、誰も見てないのか!と気づいたんです」

 人は失敗から学ぶ。ここから快進撃が始まった。

■自宅で料理教室を開く

「それで自宅で、土鍋を使ったお料理教室を開くようにしたんです。炊き込みご飯やちゃんこ鍋、石狩鍋と、テーマも料理も毎回変えて、1回5~6人を集めて。これが口コミで広まって主婦から若いお洒落な人、映画会社のエグゼクティヴと、色んな人が来てくれました。そのうち『ロサンゼルス・タイムス』などにも取り上げられ、土鍋料理の本を出すことになって、それがまたマーサ・スチュアートのホームページに取り上げられたり話題になって、じわじわ土鍋が広まっていったんです」

 元々得意だった料理、アメリカに来て学んだ料理の腕を生かした土鍋料理で起死回生。武井さんは「土鍋、という名前を憶えてもらうため」に自らをMrs. DONABEと名付けてPR活動に励んだ。しかし、どうしてそこまでやるんですか?

「勝手な思い込みですが、私のミッションはアメリカにいる日本人として、日本のいいものを伝えたい!んです。ロサンゼルスは都会だからお寿司やてんぷらが大好きという人は大勢いて日本食レストランもたくさんあるけれど、家で作る人はほとんどいない。エキゾチックで使い方が分からないっていうんですね。でも家庭料理は簡単だし、ましてや土鍋一個あれば、なんでもできる。おなべにすれば冷蔵庫にあるものを適当に入れるだけでいい。こんな素晴らしいものがなんで知られてないんだろう? 知ってほしい!という願いなんです」

次のページ
ハリウッドにショップをオープン