「NSC」の“功”の部分をいえば、その規模感や卒業生の活躍、プロになりやすいという特徴が広く知られていることから多くの芸人志望者が集まり、結果的に才能ある芸人を発掘しやすいことだろう。

一方、“罪”の部分としては、“食えないプロ芸人”の増殖に加担していることが指摘される。
 近年はテレビの世界だけを見渡しても、司会業や俳優業、コメンテーター業など芸人の他ジャンルへの進出は目立つ。

 加えて、インターネットの普及によるネット番組、ユーチュバーの誕生などもあり、芸人の活躍の場は昔に比べて広がっているが、それでも結局のところ本業だけで食べていける芸人のパイは限られている。

 吉本が莫大な収益源としてスクールビジネスに並々ならぬ力を入れ、プロへの門戸を大幅に広げた結果、プロという肩書だけを与えられて契約上の最低保証もない“食えないプロ芸人”たちを増やし続けて来たのもまた事実で、それが吉本芸人6000人という数字にも表れている。

 岡本社長は会見で「タレント、社員を含めて吉本興業は全員が家族、ファミリーであると考えております」と話していたが、吉本上層部が6000人の吉本芸人たち全員に家族愛を持って接しているかというと正直甚だ疑問である。

 吉本は今春にNTTグループとタッグを組み、官民ファンド「クールジャパン機構」からの出資を受けての教育事業への進出を発表していたが、今回の騒動により世間の物議を醸している。

「教育」を語るのであれば、新規の教育事業に注力する前に、まずは“食えないプロ芸人”となった自社のスクールの大半の卒業生たちに何とか救いの手を差し伸べてほしいものだ。(芸能評論家・三杉武)

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