「親もむし歯が多いから、私もむし歯だらけになってしまった」「私が歯周病になったのは、親からの遺伝……」。このように考えている人は意外に多いのではないでしょうか。家庭環境ではなく、遺伝の影響が大きいとすればショックですが、実際のところはどうなのでしょうか?『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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むし歯や歯周病になりやすい人は確かにいます。そして、なりやすい要因の一つに遺伝的要素があるのは事実です。
例えば、生まれた時の赤ちゃんは無菌の状態です。このため、むし歯菌、歯周病菌は母親や周囲の家族の唾液(だえき)からうつることがわかっています。具体的な感染ルートは口移しの食事やスプーンの共用、キスなどで、生後19カ月前後が最も感染しやすく、歯科関係者の間では「感染の窓」と呼ばれています。
このように感染を防ぐことは難しいですが、口の中でむし歯菌や歯周病菌が増えるか、抑えられるかには宿主である人間の環境がかかわってきます。この点、むし歯菌や歯周病菌細菌に対する免疫力が強い体質を受け継いでいる人は、病気になりにくい、という言い方ができるかもしれません。
また、歯並びが親に似ていて悪い場合も広い意味で遺伝的要素、といえます。歯並びが悪いと歯ブラシが届きにくいのでむし歯や歯周病になりやすいからです。
さらにいえば、むし歯菌や歯周病菌のエサになる、「甘い物(炭水化物)好き」が親子で似ている、という場合も広い意味で、遺伝的要素、といえるかもしれません。
とはいえ、遺伝的なものによる影響は家庭環境と比べればずっと、少ないでしょう。
「食後に歯みがきをする習慣がある」「だらだら食いをしない」「甘い物を過度に取らない」といった生活習慣が身についていれば、むし歯だらけ、歯周病だらけになることはありません。
そのことを証明するのは近年の子どもたちのむし歯の少なさです。