

感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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EBMは大切だという話をした。EBMにおいて、大切なのは帰納法だ。だから、帰納法は大切だ。
しかし、帰納法にも欠点がある。それは臨床試験に参加した人と「あなた」が同じ人物である、という前提を信じなければならない点だ。しかし、臨床試験に参加した人と私たちは違う体質かもしれない。少なくとも同じである、という根拠はどこにもない。
いや、微細なところまで考えれば、二人と同じ人はいないのだから、大なり小なりの違いはあると考えるほうが正しいだろう。たとえ一卵性双生児であっても、「同一人物」ではないのだ。
■ワインと健康についての研究のほとんどは、欧米で実施
後述するようにワインと健康についてもいろいろな研究がある。しかし、そういった研究のほとんどは欧米で行われている。アルコールに弱い人が多い日本人が、そのエビデンスをそのまま取り入れてよいかどうかは、微妙だ。
というわけで、演繹法にも帰納法にもEBMにもいろいろな問題点はある。あるけれども、「さしあたり」果物がからだによさそうだ、という話は多くの日本人には当てはめてもよいとぼくは思う。
この「さしあたり」という保留を付けた表現、いわば「中腰の姿勢」が食と健康を語る上では大切だ。居丈高になり、ふんぞり返って「この食べ方が正しい」とか「これを食べるのは間違っている」と断定口調で言ってはいけない。
本屋に売っている健康関連の本のほとんどが「インチキ」なのも、微妙なグレーゾーンを無視して断定口調で結論づけてしまっているためだ。