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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第5回は「沖縄の寿司天ぷら」について。
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「やってしまったか」
はじめてこの料理に出合ったとき、そう思った。那覇の喜作という店である。ここは南大東島の郷土料理の店で、大東寿司で知られていた。
メニューに「寿司天ぷら」があった。それを口に運ぶと……。マグロの握り寿司の天ぷらだったのだ。店では、マグロの寿司をいったん握り、それに衣をつけて天ぷらにしてしまっていた。
「ここは寿司が有名なんでしょ。それを……。こういうことしちゃっていいんでしょうか。寿司職人の沽券もあると思うんだけど。一応、寿司を大葉でくるむ工夫の跡は認めるけど」
テーブルを囲んだ知人がいった。彼は東京育ち。寿司にはうるさいほうだった。
気候に合った料理の調理法というものがある。タイでは料理にかなりの唐辛子を入れる。食あたりを防ぐ目的もあるという。フィリピンには酢でしめる料理が多い。これも料理の腐敗を防ぐ。その伝でいえば、沖縄は揚げる。なんでも揚げてしまう傾向がある。暑い気候である。
最近の沖縄では、本土の魚が簡単に手に入る。たとえばサンマ。ところが沖縄の人は、なんの抵抗もなく、サンマをそのまま揚げてしまう。魚は揚げるもの、と思っている人が多い。ホテルの朝食バイキングでも、揚げたサンマの切り身が当たり前のように並んでいる。