これも腐敗を防ぐ方法なのだが、本土からやってきた人は、そこで立ち止まってしまう。

「サンマを揚げていいんだろうか」

 寿司天ぷらもその流れのなかにある。生ものはやはり足が早いのだ。

 しかし寿司である。

 ところが困ったことに、これがいい味を出している。酢飯と油は意外と相性がいい。マグロとも合う。本土の人間が抱えもってしまった寿司へのこだわりを捨てれば、一級の料理に映る。いや、沖縄ジャンクか。

 那覇に行くと、寿司天ぷらの味を思い出してしまう。

 5月。喜作のテーブルに座った。メニューを開く。

「ない……」

 おそらく寿司天ぷらと印刷されたところに目隠しシールが貼られていた。寿司にうるさい本土の人から横やりが入ったのだろうか。

「あの、以前、寿司天ぷらがあったと思うんですけど」

 小声で訊いてみる。

「ありますよー。何個揚げましょうか。おなかにたまるから、3個ぐらい?」

 屈託のない沖縄を前に、目隠しシールを貼った理由はとても訊けなかった。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら