感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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日本の伝統的なお酒ではないが、おそらく日本人に最も好まれているお酒がビールだろう。「とりあえずビール」というくらいで、高温多湿な日本の気候ではグイグイ、喉越しのよい冷えたビールはよくあう。日本食にもよくあう。外国産のお酒で、これくらい日本食にもぴったりあうアルコール飲料は、他にないのではなかろうか。
■グラスに泡が残るか否かはホップの有り無し
ビールは大麦や小麦を原料とする。多くの場合は二条大麦を用い、その麦芽(発芽した麦)を用いる。大麦も小麦も炭水化物(デンプン)だから糖化が必要だ。しかし、ここでA. orizaeのような微生物は使わない。
麦芽が作る酵素、アミラーゼやマルターゼが炭水化物を切って糖化するからだ。そして、糖化されたものを酵母がアルコール発酵する。
また、ビールの原料にはホップがある。これはホップに含まれるルプリンの作用で、ビール独特の苦味や香りを与えるためだ。また、ホップには泡持ちを良くする作用があるのだそうだ。
同じ二酸化炭素ができる酒にスパークリングワインがあるが、ビールの泡はグラスの上に残る。しかしスパークリングワインの場合、泡は残らない。ホップの有無の違いである。なお、日本のビールには他にも添加物が加えられることも多いが、ドイツでは「ビール純粋令」というルールがあり、麦芽、ホップ、水以外は使用してはならない。