広瀬が「私はもうじいちゃんと家族でいられんの」と受ける。そこから草刈の長台詞。

「いつでも戻ってこい。ここはおまえのうちじゃ、それは変わらん。先に東京の用事を済ませてこい。したけどおまえがもし、東京で幸せになるなら、それも立派な親孝行じゃ。それを忘れるなよ。絶対にそれを忘れんな」

 この日の泰樹、いつにも増して髪がボサボサだった。草刈の目の下あたりのたるみが、いかにもなおじいさんぶりでいい味だった。少し泣けた。

 二枚目男性のことを近ごろはもっぱら「イケメン」と言うが、草刈には「ハンサム」の方が似合うと思う。背が高く、スタイルがよく、役者としての最大の特徴もハンサム。それが草刈だったと思う。

 ところが草刈は変わった。大河ドラマ「真田丸」(2016年)の真田昌幸役で毛皮を羽織って出てきて、そのことに気づいた。渋い役者になっていた。それから3年。ハンサム俳優なら出さないであろう骨。草刈はそんなことは厭わない名優になった。先ほどの判断でいうと、三つ目をあえて選択したと勝手に思い、そう結論した。もしかしたら、逆かもしれない。口から骨を出すという覚悟。それが草刈を名優にしているのか。

 草刈は66歳だ。年齢を重ねたハンサム俳優として、理想形だとも思った。で、頭に浮かんだのが西島秀俊だった。

 この欄でも書いたが、4月スタートドラマで一番のお気に入りが「きのう何食べた」だ。西島と内野聖陽がゲイのカップルを演じている。内野がカミングアウトしている美容師、西島がしていない弁護士。役柄の違いもあるが、内野の達者な芝居に見惚れてしまう。西島は、すごくハンサムだ。すごく整っている。だが、内野と比べると分が悪い。ハンサムだけどつまらない。そんなふうに感じてしまう。

 現在、西島は48歳。ほうれい線が目立ってきていることに、このドラマで気づいた。ほうれい線を隠さず、味にしようとしているのではないか。そう思った記憶があったから、骨→西島、と連想したのだろう。

 そんなわけで、勝手に西島さんに言葉を贈ることにした。

 目指せ、シャケの骨を口から出す草刈正雄

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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