東大女子のイメージも変わりつつある (c)朝日新聞社
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 テレビ界では“東大ブーム”が続いている。「東大王」「さんまの東大方程式」が人気を博し「今夜はナゾトレ」では、東大の謎解き制作集団「AnotherVision」のコーナーがラストの目玉企画だ。「頭脳王」の出場者も東大生及び出身者が多くを占めている。

【東大祝辞の上野千鶴子さんインタビューはこちら】

 そのブームを支えているのは、イケメン東大生。水上颯や松丸亮吾、河野玄斗、砂川信哉といった二物を与えられた男たちである。頭がよくてかっこよければ、モテるのは当然だ。そういえば平日の帯番組『ZIP』で朝の顔を務める枡太一アナウンサーも東大卒だったりする。

 そんななか、この春にはある識者の発言が話題になった。フェミニスト系社会学者・上野千鶴子が東大の入学式で述べた祝辞のなかの一節だ。

<他大学との合コンで東大の男子学生はもてます。東大の女子学生からはこんな話を聞きました。「キミ、どこの大学?」と訊かれたら、「東京、の、大学……」と答えるのだそうです。なぜかといえば「東大」といえば、退かれるから、だそうです>

 これを機に「東大女子はモテない(のか?)」という議論が起きた。いや、再燃したというべきか。昔から「東大女子はモテない」という話はよくいわれてきたのだ。たしかに、今回の東大ブームでも脚光を浴びているのは男子ばかり……。と思いきや、じつはそんなことはない。彼らに負けず劣らず、アイドル化している女子がいる。東大生が芸能人と対決するクイズ番組「東大王」などで活躍する鈴木光だ。

 彼女は現在20歳。筑波大附属中から同高校へと進み、東大文Iに推薦で入学した。高校時代には米スタンフォード大学の通信教育プログラムを受講して、優秀賞に選ばれている。「東大王」でのキャッチコピー「スタンフォードが認めた才媛」はそこに由来するものだ。

 しかも、得意なのは英語だけではない。「プレパト!!」では俳句に挑戦して「賽銭の 音や初鳩 青空へ」「昼網や 明石メバルの ピチカート」といった美しい句を連発している。牧場の春にクラシックの名曲をからめた「道化師の ギャロップのごと 牧開」では、俳人の夏井いつきに「溢れ出す音楽と映像」と激賞された。

 とはいえ、テレビ出演や東大クイズ研究会での活動はあくまで趣味のようなもので、将来の目標は企業弁護士。投資家が主宰する企業ゼミに参加するなど、司法試験の準備に余念がないという。

 とまあ、輝かしい才媛ぶりなのだが――。ファンを釘づけにしているのは、その頭脳に優るとも劣らない「顔面」偏差値だ。黒髪で色白の肌に「キラキラ」「キリッ」といった形容が似合う目鼻立ち。今ドキ女子の褒め言葉のひとつである「乃木坂にいそう」を超えて「乃木坂に入ってほしい」という声も聞かれるほどだ。

 さらに、特筆すべきはその女子力あふれるキャラクターである。勉強以外に音楽も得意なのだが、運動はそうでもないようで「鈴木光 走り方」で検索すると「苦手そうな走り方が可愛い」などというツイートが見つかる。そんな彼女が昨秋「オールスター感謝祭」の早押しクイズレース企画に出場。「すごい遅いので」と言いながら、懸命の激走で好感度を上げた。

 そして今春、チームのリーダー的存在だった伊沢拓司が番組を卒業する際には、涙で言葉をつまらせ、肩をふるわせながらのコメントが話題に。
「今まですごくお世話になって……でもなんか、なんだろう……最初に馴染めなかったときから、すごく優しくしてくださった先輩なので、やっぱり、卒業するのはさびしいですけれど。ただ、みなさんで最後にいい思い出作りたいなって思います。すみません」

 と、しどろもどろになったことを詫びるなど、芸能人とはひと味違う初々しい本気の泣きが感動を与えた。

 そんな姿には、チームメイトをリスペクトし、自らも楽しみながら、必要以上に出しゃばらず控えめに振舞おうとしている印象がある。それゆえ、世間が東大女子に抱きがちな「マジメすぎ、冷たそう、お高くとまってる」といったイメージはまったく伝わってこないのだ。これはかなり画期的なことだといえる。

 というのも、これまでに出現した「東大女子芸能人」は常に世間から「東大女子っぽさ」のようなものを求められ、実際、公私にわたってその期待に応えるかたちになってきたからだ。草分けの加藤登紀子は学生運動の闘士と獄中結婚、高田万由子は音楽家・葉加瀬太郎の妻としてロンドンでセレブ生活、桜雪(仮面女子)は渋谷区議にという具合だ。

 菊川怜はその天然っぽさがかなりアイドル寄りだったが、それでも「バンキシャ!!」や「とくダネ!」でサブキャスターとしての職務をしっかりこなした。天明麻衣子もまたしかり。在学中に「テストの花道」での勉強指南役で美人ぶりが注目されたあと、NHKの契約アナを経て外資系銀行、語学留学といった道を歩んだ。現在は『日経モーニングプラス』でサブキャスターを務めるほか「Qさま!!」ではカズレーザーやロザン宇治原と好勝負を繰り広げながら「氷の女王」という高飛車なキャラ設定を律儀にこなしている。

 とまあ、先輩たちはいずれも、地にせよ演技にせよ、どこか窮屈で予定調和な東大女子イメージにおさまっていたのだが、鈴木光にはそれがない。高学歴であろうとなかろうと「可愛い」女の子は可愛いのだという当たり前のことを思い出させてくれる。そういえば昔、東大在学中の高田万由子を取材した際、その手や指の可愛さに感動したものだった。そういう魅力に学歴は関係ない。東大女子だって「女の子」なのだ。

 もちろん、鈴木とて圧倒的な頭脳が嫌味にならないように見せる努力をしているのかもしれない。が、その努力をほとんど感じさせず、東大女子という強烈なイメージを忘れさせるほどの可愛さを体現しているのはすごいことだ。周囲から浮くことなく、でも自分を魅力的に見せたいというのは今ドキ女子の理想でもあり、それをかなえているからこそ、同性からも憧れられるのだろう。

 前出の入学式祝辞において、東大男子と東大女子の感覚の違いを上野千鶴子はこう分析した。

<なぜなら、男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがあるからです。女子は子どものときから「かわいい」ことを期待されます。ところで「かわいい」とはどんな価値でしょうか? 愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです>

 たしかに、高学歴の女子を敬遠する男子はいるだろう。が、それはいまや少数派なのではないか。相手のほうが背が高くても、収入が高くても別に構わないという男子が増えているように。ちなみに、筆者の妻は国立大の医学部を首席で出ていて、大学除籍という制度上は高卒でしかない自分とは雲泥の差だ。でも、引け目を感じるどころか、その賢さや勤勉さを尊敬している。おそらく、上野のいう「ねじれ」はかなり解消しつつあるのだ。頭がよくてかっこいい男子がモテるように、頭がよくて可愛い女子もモテるという時代の到来を鈴木光のブレイクは示しているのだろう。

 折りしも、今年はかつての東大女子が新皇后になられた年である(雅子さまは米ハーバード大から東大に進み、外務省入りのため中退)。また、フジテレビは、東大卒の新人・藤本万梨乃アナに新エースとなる期待をかけているという。鈴木が出演する「東大王」には紀野紗良という妹分が新・東大王候補として加入。「今夜もナゾトレ」では「AnotherVision」のアイドル的存在・リカ子が人気だ。

 昭和の時代「東大生が選ぶアイドル」というものが存在した。東大のアイドル研究会がオーディションを行ない、そこから世に出た武田久美子などがそう呼ばれたわけだが、令和の世には「東大生がなるアイドル」が注目を浴びていくことだろう。(宝泉薫

■宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。

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1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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