感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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チーズもヨーグルトも、日本伝統の発酵食品とはいえない。しかし、すでにこの国に定着している発酵食品なので、ここで紹介しておきたい。
■17世紀にオランダから贈られた「ゴーダチーズ」
その後、反芻(はんすう)動物の胃の酵素を利用するといった意図的な方法でチーズが製造されるようになった。ローマ時代にはパンやワインと並んでローマ人の主要な食事の一要素となっていた。一方、日本人は西洋人に比べてチーズをあまり食べないといわれる。発酵食品の豊かな日本だが、乳製品の発酵(チーズやヨーグルト)は「日本食」としてはめずらしい。
実際にはその歴史は古く、6世紀に朝鮮半島の百済から「酥(そ)」と呼ばれるチーズの原型が仏教とともに入ってきたそうだが、食品文化として定着することはなかった。17世紀にオランダから江戸幕府に献上品としてゴーダチーズが贈られたが、これも普及には至らない。
日本で本格的にチーズ作りをするようになったのは明治時代になってからで、北海道が発祥の地だとか。その後、1963年に学校給食でプロセスチーズが正式に採用され、日本でもチーズ食が普及する。
プロセスチーズとは、加熱して保存しやすくしたもので、学校給食で三角形の銀紙に入っていたのを思い出す。ときに、加熱しないチーズをナチュラルチーズと呼ぶが、そもそも海外ではプロセスチーズを食べる文化は一般的ではなく、通常「チーズ」というときはナチュラルチーズのことを指している。いずれにしても、日本でも現在ではスーパーに行けばいまや多種多様なチーズ(ナチュラルチーズ)が売られるようになった。もはや、日本でも乳製品は珍しくないのだ。