■漬物
漬物は、日本では1000年以上の歴史を持つ古い食品だ。漬物には、塩漬け、みそ漬け、ぬか漬け、粕(かす)漬けなどたくさんの種類がある。
冷蔵庫が普及しない時代には保存食として重宝した。が、現在ではその味覚を楽しむという側面のほうが大きくなっている。最近では健康に気を使い、塩分を少なめにした漬物が人気だ。
漬物は製造法によって新漬け、調味漬け、発酵漬物に分類されるそうだ。新漬けは食塩濃度を1~3%にした、いわゆる浅漬けだ。白菜やきゅうりを用い、ぼくもよく作る。塩分が低いのは善しあしだ。
動脈硬化など血管性の病気の予防には有用かもしれないが、微生物が繁殖しやすくなり、食中毒の原因にもなる。2012年には北海道で腸管出血性大腸菌О157を原因とする白菜浅漬けの集団食中毒が発生した(Tabuchi A et al. Western Pac Surveill Response J. 2015 Apr -Jun;6(2):7–11)。
調味漬けは15~20%の高濃度の食塩で原料野菜を漬け込み、必要に応じて脱塩、圧搾、そして調味液に漬けて製造する。代表的なものはカレーについてくる福神漬けだ。発酵漬物は5~10%の食塩濃度で漬け込む。
このとき、乳酸菌による発酵風味が加わる。発酵過程で乳酸ができるため、保存効果も増すという。柴漬けや赤かぶ漬け、すぐき漬けが発酵漬物の一例だ。韓国のキムチやドイツなどのザワークラウトなども同様の発酵漬物だ。
ちなみに、乳酸菌は浅漬けで繁殖すると酸味が出て風味が落ちる有害菌らしい。同じ菌でも食物によって害となったり、益となったりする。乳酸菌とは乳酸を作る菌の総称だ。乳酸菌、という単一の菌はいない。このことはすでに何度か述べている。
乳酸菌を構成する菌はさまざまだ。なにしろ乳酸を作ればなんでも乳酸菌なのだから。発酵漬物に用いられる「乳酸菌」にはLeuconostoc mesenteroides, Enterococcus faecalis, E. faecium, Lactobacillus plantarum, L. brevis, Pediococcus acidilactici, P. pentosaceus, Tetragenococcus halophilusなどが関与している。
このうちE. faecalisやE. faeciumは人間の病気の原因にもなるので、医者のぼくはよく遭遇する(患者の体の中から見つかる)。ほんと、微生物は使いようだ(「使う」といっている時点で人間目線で、微生物サイドから見たら失礼かもしれないが)。