感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました! カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録。
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■みりん
みりんは戦国時代くらいにできた調味料といわれる。蒸した米に米麹、焼酎などのアルコールを混ぜて、熟成、濾過(ろか)して作る。ここで麹菌のアミラーゼが米のでんぷんを糖化し、プロテアーゼがたんぱく質を分解してアミノ酸の風味ができる。
アルコールは最初から入っているのでアルコール発酵は起きない。みりんにはアルコール(14%程度)が含まれているが、発酵の産物ではない。日本酒に比べると、飲むと甘いのが特徴だ。
現在では調味料として使われるみりん。しかし、昔はみりんを調味料としてではなく飲料として飲んでいた。落語でも「夏の飲み物」としてみりんは登場する。江戸の「本直し(あるいは単に「直し」)」、上方の「柳陰」だ。
落語の演題では「青菜」が有名で、柳家小三治が得意にしている演目だ。西洋でも東洋でも昔は甘口の酒を好んでいたようだ。日常の食事に甘みが乏しかったせいだろう。この話は以前もした。現在でも、正月に飲むお屠蘇(とそ)は薬草に漬けたみりんだ。では、みりんは健康になにか寄与するところがあるのだろうか。
検索した限りにおいては、みりんの健康効果を確認した臨床試験は見つけられなかった。みりんは調味料として用いられる。魚や肉の照り焼きにも使われるが、その魚の脂質酸化抑制効果があるという基礎実験がある(石田丈博ら。魚の加熱調理における本みりんの脂質酸化抑制効果. 日本調理科学会誌, 2005;38:480-485)。
しかし、これが人間の健康に寄与することを意味しているかははっきりしない。