感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました! カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録。
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日本酒についてふれたので、せっかくだからその他の日本の発酵飲食物についても触れてみよう。
ぼくは微生物を扱う感染症屋なので、微生物が行う発酵とその発酵が作る発酵食品にはどうしても興味が湧いてしまう。食料に微生物が繁殖すると化学反応が起こり、食べられなくなる。これが腐敗だ。ところが、なかには化学反応によって食べ物がよりおいしくなってしまうこともある。これを発酵と呼ぶ。この話は、なんどかした。
発酵によってできた食べ物を発酵食という。みそ、ヨーグルト、チーズ、漬物、納豆などが発酵食だ。こう考えてみると、日本にはたくさんの素晴らしい発酵食品があるのがわかる。
■しょうゆ
日本における発酵食品の代表選手がしょうゆとみそだ。どちらも大豆が主原料だ。しょうゆは大豆と小麦を加熱し、麹と食塩水を加えて発酵させる。大豆のたんぱく質、小麦のでんぷんがそれぞれアミノ酸とグルコースに分解される。
さらにしょうゆ酵母やしょうゆ乳酸菌が資化することでしょうゆができる。では、資化とはなにか。これは「微生物が利用すること」。だから、まあ発酵ということだ。
外国には魚を発酵させた魚醤(ぎょしょう)がある。タイの「ナンプラー」やベトナムの「ニョクマム」などだ。日本にも「しょっつる」という魚醤がある。西洋のアンチョビソースも魚醤の一種だ。うちの奥さんはこれが苦手で、ぼくはこれが大好きだ。発酵食品は好みが分かれる。