例年なら、読谷球場にはそれこそ、目視で数えられるほどの観客しかいない。そもそも、まだ無名の若手が中心の2軍、練習に足を運ぶのは、よほど熱心なファンだけだろう。
ところが一転、今年の読谷のスタンドは、常に熱気に包まれている。背番号「7」の一挙手一投足に、その視線が、降り注がれている。根尾が動くと、ファン、報道陣、TVカメラが一斉に動く。ロッカーからサブグラウンドまで、およそ150メートルの移動中にも「根尾君」とあちこちから声が掛かり、スマートホンのカメラが向けられる。根尾の居場所を見逃しても、人だかりのできているところを見つければ、その先には、必ず根尾の姿がある。
空前の『根尾フィーバー』だ。
その喧噪の中で、18歳は実に落ち着いた振る舞いを見せている。根尾の“指南役”として、ノックバットを振るう荒木雅博・2軍内野守備走塁コーチも、不変の「冷静さ」に驚きを隠せないという。
「しっかりした高校生だなと。一番、そこを思いましたね。これだけのファンやカメラの中で、浮足立つことなく、淡々と、いちいち反応もせず、それって、ホントにすごいことです。俺だと、すぐ手振っちゃうけど」。
根尾自身が、ドラフト指名前から「荒木さんとお話ししてみたい」と公言していたほどの、憧れの存在。その荒木コーチからノックを受け、アドバイスをもらえる。この機会を逃すまいと、ノック後にアドバイスを受けている時には、身動きもせずに、荒木コーチの目を真っすぐ見て、その一言一言にうなずいている。
「ドンと質問してきますよね」と、荒木コーチは根尾の貪欲さも絶賛する。
「質問してくる時点で、こういう質問をしていいのかな……となるところじゃないですか? 聞かれること? 技術的なことなんですけどね。普通なら、1年過ぎたあたりで聞いてくるようなことでしたね。自分からぶつけてきますよ」
質問の詳細について、荒木コーチは明言こそ避けたが、感心するのは「その考え方、会話の内容、質問してくる要点ですね」。ここが分からないということを、把握できているからこそ、明確に、質問をぶつけることができる。それは、自分のプレースタイルや特徴、さらには苦手な分野も、自分自身の中で、きちんと理解しているからだろう。