83キロ張本vs78キロ榊の火花が飛び散るような激突シーン。直後、両者揃ってその場にひっくり返ったが、榊がすぐに起き上がったのに対し、張本は五十嵐洋一球審が「アウト!」をコールしても、KOされたボクサーのように大の字になってのびたまま。激突の際に脳震とうを起こしてしまったのだ。無残にもひびが入ったヘルメットが、衝撃の凄まじさを物語っていた。

「あの張本さんが……」。ナインがビックリしたのは言うまでもない。真っ先に三原脩球団社長が駆けつけ、担架で搬送されるなど、一時は大騒ぎになった。

 その後、球場の医務室で意識を取り戻した張本は「まだ頭がボーっとしている。どんな状態になったのか全然覚えていない。ただホームベースの上で飛び上がったような気もする。こんなことは生まれて初めて。子供のころの喧嘩でもなかったよ」と目を白黒。それでも、左アゴに擦過傷を負っただけで、大事にならなかったのだから、その頑健ぶりには驚かされる。

 一方、ベンチで一部始終を見ていたロッテ・金田正一監督は「野球選手がグラウンドで走るのならわかるが、大の字になるのは珍しい。榊の勝ち!」と2対6の敗戦にもかかわらず、ご機嫌だった。

 張本は同16日のロッテ戦で戦列復帰をはたすと、前々日のKO劇がウソのように、5回に豪快な右越え同点3ランをかっ飛ばしている。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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