もうひとり、受験の失敗で人生の花が開いたのが第146回芥川賞作家の田中慎弥さん。授賞式で「もらっといてやる」と発言し、話題を集めた作家です。
田中さんは、大学受験の失敗を機に、15年近くひきこもりました。「なんとなく働く気になれなかったから」という理由から15年間は定職に就くどころかアルバイトもしていません。しかし、仕事の代わりに読書をはじめ、20歳のころから執筆を開始。33歳で作家としてデビューしました。
田中さんの魅力は、なんといっても、その突き抜けた考え方です。「孤独論」(2017年刊/徳間書店)では、こう書かれています。
<みんなこうしているから、という幻影の声に惑わされ、正体のないものの奴隷になってしまう。この御時世、放っておけば奴隷のような生き方にからめとられてしまう。だからこそ、意識的にそこから逃げなければならない>
田中さんのこうした考え方は、大学受験に失敗しひきこもったからこそだと私は思っています。
私はこうした「受験失敗組」の話を聞くのがとても好きなのですが、それは自分も受験失敗組のひとりだからです。私が受験したのは私立中学校でした。いまでも当時の雰囲気はよく覚えています。
1993年の2月1日。試験会場に着くと、2年間、この日のために塾で勉強してきたことを思い緊張してきました。答案用紙が配られ、「始めてください」という声とともに、問題に眼を通します。
そのとき私は「どれも解けそうだ」と安堵しました。
4教科のテストを終え、解答用紙をもらって帰宅。自己採点を始めると、なんと「解けそうだ」と思った問題のほとんどが間違えていました。しかも回答を見ても、なぜ自分が間違えたのかわかりません。
おそらく想像していた状況と違って、混乱していたのだと思います。しかし、そのことを誰にも相談せず、混乱したまま第二志望校から第六志望校までを受験。すべての受験で落選しました。