「カズの移籍の時は、『大型ディールがある』いう話が日本から舞い込んだのが最初でした。2005年に日本で開催されるFIFAクラブワールドカップ(FCWC)にJリーグクラブが参加しないので、世間の関心を高めるためにカズをシドニーFCに送りたいと。コストは全て日本側が負担するという話でした。もちろん私は2つ返事で了承した。当時カズは37歳。豪州サッカー関係者は『そんな高い年齢の選手を取るなんてバカげている』と批判したけど、彼が来てからの2か月間、シドニーFCの試合には毎回2000人の日本人が訪れた。それは驚くべきインパクトでした。FCWCでも東京、豊田ともに大観衆が集まったし、大会は大成功したと思います。名古屋駅でカズが新幹線に乗る時に約1000人のファンが花道を作ったのには驚かされました。プロ意識の高さや人間性を含めて、カズが豪州サッカーにもたらしたものは非常に大きかった」

 2012年に小野を豪州に移籍させたことも大成功だったと彼は自負している。

「シンジのケースはクラブが年俸を負担しましたが、その投資以上の働きを見せたのは間違いない。彼は強いメンタリティとフィジカルを兼ね備え、スキルも完璧。芸術的ゴールで人々の心を瞬く間にわしづかみにしました。フェイエノールト(オランダ)時代にUEFAカップ(現在のUEFAヨーロッパリーグ)制覇も経験しているので、まったく物怖じすることなく、周りをコントロールしていたと思います」

 カズ、小野、本田に共通するのは、海外でキャリアを積み重ね、成功を収めている点だ。それは多民族国家のオーストラリアで生き抜いていくうえで極めて重要なポイントだと大物代理人は指摘する。

「例えばメルボルンにはイタリア、イングランド、ギリシャ、クロアチアの大きなコミュニティーがあります。日本人はそこまで多くないけど、留学生がたくさんいる。そういう環境なので、いろんな価値観を認められるオープンマインドが必要です。過去に成功した日本の2人はその条件を満たしていた。オランダ、ロシア、イタリア、メキシコで生き抜いてきたホンダはまったく問題ないでしょう」

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本田の豪州移籍がもたらすもの