ソフトバンクの工藤公康監督 (c)朝日新聞社
ソフトバンクの工藤公康監督 (c)朝日新聞社

 勝てば、ファイナルステージ進出。負ければ、その瞬間にシーズンが終わりを告げる。のるかそるかの大一番。だから、試合の内容はそれこそ、どうでもいい。勝てばいいのだ。采配がまずくとも、少々のミスがあろうとも、最後に勝利をつかめれば、それでいいのだ。

 12安打、9残塁。シーズン中ならば「拙攻」と非難されることだろう。タイムリーはなかった。それでもソフトバンクは、5点を奪った。ソロ本塁打ばかりを5本。先発の東浜巨は、4回を1失点。5回無死一、二塁のピンチで、リリーフ陣に後を託しての継投となった。しかし、5回を持たずに先発投手が降板すれば、リリーフ陣にしわ寄せが来ると酷評されるのも、シーズン中だけのこと。「3戦目。1球1球、魂を込めて投げてくれた。早めに代える判断を下していました」と監督の工藤公康は、リードした展開での降板だったゆえに、東浜をむしろねぎらっていた。5年連続となる「ファイナルステージ」への進出となった、ファーストステージ第3戦の白星。内容は問わないとはいってみたものの、試合をざっと眺めてみると、やはり随所に“光るプレー”が見受けられるのも確かだ。

 その中から「5つの局面」を挙げてみたい。

 【1回表 無死一塁】
 ソフトバンクが最も警戒していたのが、日本ハムの1番・西川遥輝だった。2年連続でのリーグ盗塁王。今季の対戦でも、5試合・6盗塁を許しているが、うち4試合でソフトバンクが敗れている。西川に揺さぶられ、走られることが黒星につながるのだ。

 この日の第1打席、先発・東浜は7球粘られたものの、最後に当たりは、二塁への緩いゴロだった。ところが二塁手・明石健志が一塁へ悪送球。西川に出塁を許してしまった。

 2番の大田泰示は、ストレートに強い。西川を警戒し過ぎると変化球が投げづらく、ストレートが増えてしまう。これこそが、西川に出塁を許した際の悪循環。東浜がけん制を3度挟んでのカウント2ボール0ストライクからの3球目。西川がスタートを切った。これを、強肩の捕手・甲斐拓也が見事に刺したのだ。

 1球目、1秒24。2球目、1秒18。いずれも、東浜がモーションを起こしてから、甲斐のミットに投球が収まるまでのタイムだ。

 3球目、西川がスタートを切り、滑り込んでの二塁到達タイムは「3秒17」だった。プロの世界でも、3秒2を切れば、まずセーフになるといわれている。ところが、これがアウト。1球目から逆算すれば、甲斐の二塁送球は「1秒87」となる。こちらも2秒を切れば「強肩」と評価される数字である。リーグ随一の「俊足」と「強肩」の対決は甲斐に軍配が上がった。

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柳田悠岐が披露した“驚異のプレー”