偏った情報に偏りがちになるインスタの医療情報。問題打開に立ち上がった医療者たちの発見と医師と患者の新たな関係。私たちが偽医療情報を見分ける方法とは。
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子育てをしている親たちは日々不安や迷いに直面する。例えば、赤ちゃんは生後2カ月から数多くの予防接種が始まる。まだ首も据わらない我が子にたくさん注射して大丈夫なのかと不安に思う親たちは少なくない。そうしたときにネットで情報を検索すると、ワクチンの不安をあおるような投稿や体験談にたどり着きやすい。
感染力がとても強く世界で感染が拡大しているはしか(麻疹)や、昨年から日本でも流行している風疹などはワクチンがあればほぼ防げる感染症だ。ワクチンを打つかどうかは個人の判断ではあるが、自分自身の感染を防ぐことと同時に、免疫がついていない赤ちゃんや移植手術をした人、抗がん剤治療中の人など免疫の低下した人を守るために、多くの人が予防接種をして流行させないことが重要だ。
また皮膚の炎症を抑える「ステロイド」についても、「体に毒素がたまる」といった投稿があり、それを信じてステロイドを忌避する人も。インスタでも「#脱ステ」のハッシュタグをつけた投稿がたくさん出てくる。
「反ワクチン」について分析するイベントを企画したジャーナリストの鈴木エイトさんは言う。
「子どものことを考えて、情報を必死に集めようとしても、偏った情報しかなければ正しい判断はできない。そういう状態を放置すれば、適切な医療を受ける機会を逸して、子どもたちが苦しむことになります」
ネット上で偽医療情報が出回ることについて、
「医療者が手を差し伸べられなかった隙間に入り込んでいる」
と話すのは、内科医としてツイッターで情報発信するナビタスクリニック理事長の久住英二さんだ。
「信頼性のある情報よりも、恐怖や不安のほうが人の心を強くとらえ、思考停止させてしまう」
一方、厚生労働省など公的機関が発信する情報は情報量が多すぎてわかりにくい。
「正しい情報へリーチしにくいことも誤解を招く原因になっている」(久住さん)
医療情報のリテラシーに詳しい京都大学大学院医学研究科の中山健夫教授はネット上で根拠に基づいた医療情報を探すための情報源として「診療ガイドライン」を挙げる。厚労省委託事業で日本医療機能評価機構が運営する「Mindsガイドラインライブラリ」には、日本で公開された診療ガイドラインが集まっているのでお勧めだ。だが、ガイドラインは主に医療者向けに書かれたもので、患者には難しい面もある。