店主・稲生田幹士さん。とにかくスープにこだわる(筆者撮影)
店主・稲生田幹士さん。とにかくスープにこだわる(筆者撮影)

「まず、ワンタンメンを人気メニューにするにはワンタンを巻くのが早くないと絶対に無理なんです。うちだと1日1000個出ますが、少しでも巻くのが遅れたら間に合いません。ブームにならないのは工数的な問題だと思います」

 仕込みのなかに、「巻く」という工程がひとつ増えるのは、想像以上に大変だ。創業から20年経つ「八雲」であっても、ワンタンを巻くのは稲生田さんでなければ厳しいという。

 そんな状況でも、「八雲」出身の職人たちが各地で奮闘する。都内では大田区の「いそべ」や台東区の「大和」。福島県にある「幸雲」、島根県にある「かつみ」もワンタンメンを広めようと励んでいる。

 開店以来、愚直にワンタンメンを極めてきた稲生田さんだが、新店を開きたいという夢もある。

「店を任せられるように、まずは従業員をしっかり育てます。新しい味にもチャレンジしてみたい」(稲生田さん)

 そんな稲生田さんが愛するラーメンは、渋谷で1、2を争う人気店。激化するラーメン戦争のなか、長年不動の人気を誇る名店である。

■渋谷ナンバーワンの名店は「ハウツー本」から生まれた

 ラーメン激戦区・渋谷。

 ターミナル駅ということもあり、老舗から大手チェーン、新店まで多くの店がしのぎを削るエリアだ。グルメ口コミサイト「食べログ」によると、駅から800m以内に118軒のお店がヒットする(19年12月22日時点)。そんな中で、渋谷エリア1位に輝く店をご存知だろうか?

「食べログ」では3.79点で1位、日本全国のラーメン情報をレビューやランキングで紹介している「ラーメンデータベース」でも95.75点で1位(どちらも19年12月22日時点)の店がある。「らーめん はやし」である。

らーめん はやし/〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-14-9/11:30~15:30、日・祝定休、スープ終了まで/筆者撮影
らーめん はやし/〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-14-9/11:30~15:30、日・祝定休、スープ終了まで/筆者撮影

 住所は道玄坂1丁目。渋谷マークシティ沿いの坂を上がり、路地を曲がってすぐのところに店を構える。渋谷の中心街から外れた場所にあり、午前11時半から午後3時半までと昼のみの営業。かつ、日曜と祝日も休みと、ハードルが高いなか、開店から閉店まで行列が続く。

「はやし」の魅力はなんといっても、奥深い魚介ダシに動物系で厚みをつけたスープだ。化学調味料不使用(無化調)ながら爆発的な旨さに魅せられたファンは数知れない。

 店主の林真剛さん(58)は兵庫県内の寺に生まれ、大学進学を機に上京した。家の近くにあるラーメン店によく通い、中でも「たけちゃんにぼしラーメン」(調布)、「あおば」(武蔵境)、「げんこつ屋」(新高円寺)などのあっさり系が好きだった。だが、当時は並んで食べるほどラーメンが好きなわけではなかった。

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なぜラーメン屋に?