「食に関するヒルデガルトの教えには、ドイツに昔から伝わる食の知恵も垣間見えます。この本のために(共著者である)野田浩資シェフが、ヒルデガルトがとくに効能を認めた食材やスパイスを使っている料理をレシピにまとめてくれました。日本ではなじみがない食材もありますが、彼女の食の教えに従って臨機応変に他の食材で代用したり、アレンジするためのヒントについても野田シェフが書き加えています」

 その野田シェフは「ヒルデガルトのレシピは季節の食材を使うシンプルなもの。ビーツをゆでてピュレにしてから、野菜のブイヨンでスープにするなど、料理法は難しくないけれど、意外な食材の組み合わせなどの発見があるレシピです」と語る。

 ブイヨンもくず野菜でとったものだったり、無駄なく食材を使いきる発想だ。

「ヒルデガルトは『フィジカ(自然学)』という本で、薬草についてもくわしく書いています。人間がどうしたら健康でいられるのか、病に立ち向かうことができるのか、ヒルデガルトには西洋医学が確立する以前の葛藤があるように思うんです。彼女には漢方に通じるような考え方がたくさんあり、素材の組み合わせやハーブの使い方など、800年以上の時を経ても、現代の食卓に活かせるヒントがたくさんあります」(飯嶋さん)

 実は日本でもヒルデガルトの考案したレシピのハーブティーが販売されているし、彼女が推奨するスペルト小麦は、サイゼリヤの限定メニューに登場したこともある。本書を読めば、中世ドイツに生きたヒルデガルトの存在を、より身近に感じることができるだろう。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年4月3日号