AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『歴史学者という病』は、本郷和人さんの著書。歴史を愛する人気学者の半生記にして反省の記。幼年時代、偉人伝などをはじめとする「物語」としての歴史にはまった著者は、大学入学後、本格的な歴史研究者を志す。そこには「物語」ではない「科学」という、まったく新しい様相の歴史が待ち構えていた。時代によって姿を変える「歴史」をどのように考えるべきか。自らの経験をもとに歴史という学問の未来を問う、血の通った内容だ。本郷さんに同書にかける思いを聞いた。
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東京大学史料編纂所に勤務し、新しい視点の本を次々に著してきた本郷和人さん(62)。『歴史学者という病』は、本郷さんが初めて書いた自伝的な一冊だ。
歴史学・歴史学者とは何か、学生時代の迷いや懊悩、研究者としての反省、歴史教育のありかた、母親、妻との関係──といった事柄について、綺麗事だけではない気持ちも書かれている。
「自分の人生を縦軸に、戦後から続く我が国の歴史学の大きな流れを描こうと思いました」
歴史とは誰のものか、皇国史観、マルクス主義史観、そして網野善彦や(本郷さんが学んだ)石井進、笠松宏至、勝俣鎭夫ら「四人組」と称された研究者たち。本郷さんの経験を通じて、戦後の歴史研究がどのように変遷してきたのか、読者は生々しく知ることができる。複雑な経緯が整理された、歴史研究の入門書としても読めるだろう。
「『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』というビスマルクが言った──と、言われている言葉があります。あくまで“言われている”なんですが、有名なこの言葉が何を表しているのか、きちんと説明できる人は案外いないと思います」
歴史が好きだ──と言う人は多い。だが「歴史から史実を学んでいるだけでは愚者になってしまう」と、本郷さんは言う。