「プリンセス・ダイアナ」photo Alamy Stock Photo
「プリンセス・ダイアナ」photo Alamy Stock Photo

 公人の物語が「エンタメ」になるとき、我々はその渦中にいる人が我々と同じ感情を持つ「人間であること」を忘れてしまう。そのことに警鐘を鳴らしたい、と監督はいう。

「本作は誰かに『あなたのせいだ』と咎(とが)を向けるような映画ではありません。大事なのは我々一人一人が果たしている役割は何なのか、を考えること。自分の行動をコントロールできるのは自分自身にほかならないのですから」

 さらに本作に描かれるのはダイアナの悲劇の側面ばかりではない。王室メンバーとして初めてHIV患者の病棟を訪問し、彼らのそばに腰を下ろし、気さくに語りかける姿。アンゴラの地雷地帯に赴き、現地の赤ん坊を抱き、人々と交流する姿などに心を動かされる。

■世界に変化もたらす

「彼女はチャリティー活動などでどこを訪れても、常にその空間でおそらく一番重要とされていない人物にまっすぐ向かっていきます。自分の地位などに関心はなく、相手の心の武装をとき、気持ちを楽にすることができる人でした。そうされることで相手は、自分の物語が『語るべき意味のあるものなのだ』と思うことができる。それはプリンセスだったからではなく、彼女の内在的な力なのです」

 地雷撲滅キャンペーンへの協力のほか、ホームレス支援団体やハンセン病患者支援団体などで理事長を務め、自身のドレスを販売しチャリティーに寄付するなど、その功績は多大だ。

「彼女はその力で実際に世界に変化をもたらすことができた。しかしそれらはいま、ダイアナの物語が語られるときには忘れられてしまうことが多い。この映画で彼女のなしたことを、思い出してもらえたらと思います」(パーキンズ監督)

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年10月10-17日合併号より抜粋