「水の安全を求めるママたちの会」の山本藍代表。「県民が安全に生きられる場所を確保してほしい」と話す(photo 編集部・渡辺 豪)
「水の安全を求めるママたちの会」の山本藍代表。「県民が安全に生きられる場所を確保してほしい」と話す(photo 編集部・渡辺 豪)

 浜では冬から春先にかけて「貝の帯」が見られる。干満の差が小さい小潮のとき、波打ち際に沿って大量の貝殻が隙間なく堆積(たいせき)している現象を、名和さんがそう名付けた。しかし、「貝の帯」は16年ごろからほとんど現れなくなった。理由は分からない。17年に埋め立てが始まった辺野古の基地建設の影響についても判断できない、と名和さんは言う。

 貝の帯が再び見られる日は来るのか。名和さんは遠い将来に望みを託すようにこう言った。

「自然の砂浜は一時的に環境が劣化しても、沖合の海域が健全であれば、潮の巡りによって元のきれいな浜に回復します。砂浜の砂は常に生き物のように大きく動いていて、沖合の海底と連動しながら維持、成立しています」

 だが、豊かな貝の生態系を育む「ゆりかご」として機能している大浦湾の海底は、埋め立てに不向きな「軟弱地盤」のため大掛かりな改良工事が予定されている。

 辺野古新基地建設の是非は今回も知事選の争点とされる。名護市ではこの20年、選挙のたびに有権者は「判断」や「選択」を迫られ、分断されてきた。だが、「阻止」や「反対」を掲げる知事や市長が誕生しても結局、国は「辺野古が唯一」という姿勢を変えなかった。地元の人は「辺野古」について語りたがらない。名和さんも例外ではなかった。

 次期知事への要望は? そう尋ねると名和さんはこう返した。

「今、わずかに残っている沖縄本来の自然の砂浜(自然海岸)を、未来の子どもたちのために残す配慮をしてほしいです」

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 那覇市の西海岸沿いにある飲食店。店内に設置されたウォーターサーバーが目に付いた。

「自宅にRO膜(逆浸透膜)を利用した浄水器を設置しています。その浄水をタンクに入れ、夫と経営するこの店でも使用しています」

 こう説明するのは、「水の安全を求めるママたちの会」の山本藍代表(44)だ。RO膜浄水器は、人体に有害な有機フッ素化合物「PFOS(ピーフォス)」の除去に有効とされている。浄水器は市内の自宅に3年前から設置しているという。

 県内の母親たちが同会を発足したのは19年5月。那覇市を含む7市町村に水道水を供給している北谷浄水場(北谷町)を水源とする住民の血中から高濃度のPFOSが検出された、との報道が出た直後だ。山本さんはこう振り返る。

「蛇口をひねるのが怖くなりました。ママ友に呼び掛けると、みんな黙っていられないという反応でした」

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