それに、悔しさがわかるから謙虚にもなれる。自分が負けたときの悔しさがあるから、相手の気持ちを理解できるようにもなる。互いに尊重して認め合えるからこそ「ありがとうございました」が気持ちいいんです。

 だから子どもの教育にも将棋は向いていると思っています。悔しさが心を育て、礼儀を知ることへとつながります。

つるの剛士さん(撮影/写真映像部・松永卓也)
つるの剛士さん(撮影/写真映像部・松永卓也)

 うちの5人の子どもも一度は将棋に触れましたが、僕は教えるのが難しかった。だって、子どもに負けられないんです。勝たせなきゃいけない時も、どうしても負けたくない(笑)。

「負けました」というのは、自分の実力を認めることだと思っています。将棋は100%実力の世界で、同じ条件で始まる。麻雀のように配牌が大きく影響することがない。つまり、将棋の負けは、現段階の実力が対戦相手より劣っていることを示しているんです。だからこそ次にがんばろうとつながるステップになるし、相手を認められる心の成長にもつながると思っています。「負け」がきれいなんですよね。負け際で、その人の全てが出ますね。

駒になりきるのは芸能界も同じ

 芸能界も将棋みたいなところがあると思っています。バラエティー番組は、ある意味、出演者みんなが将棋の駒みたいなもの。番組側からすれば、王様を囲う金と銀を立てて、ボケ系の香車や桂馬がいたり。その役回りを自分なりに考え、駒になりきることが大切です。

 将棋で一番良くない形は、駒が動いていないとき。銀が銀らしく、桂馬が桂馬らしく飛んでいるときが「きれいな形」です。金や銀だけ動いているのは形としては良くない。これって、きっとビジネスや会社でも同じですよね。将棋から学べるものはたくさんあります。

(構成/編集部・井上和典)

※AERA 2022年4月18日号

つるの剛士さん(撮影/写真映像部・松永卓也)
つるの剛士さん(撮影/写真映像部・松永卓也)