東郷和彦さん(右)静岡県立大学客員教授(とうごう・かずひこ)元外交官、政治学者。外務省で条約局長、欧亜局長、オランダ大使などを歴任。『北方領土交渉秘録』など著書多数
/手嶋龍一さん(左)外交ジャーナリスト・作家(てしま・りゅういち)NHKでボン支局長、ワシントン支局長などを歴任。外交・安全保障やインテリジェンスを専門とする(photo 写真部・松永卓也)
東郷和彦さん(右)静岡県立大学客員教授(とうごう・かずひこ)元外交官、政治学者。外務省で条約局長、欧亜局長、オランダ大使などを歴任。『北方領土交渉秘録』など著書多数 /手嶋龍一さん(左)外交ジャーナリスト・作家(てしま・りゅういち)NHKでボン支局長、ワシントン支局長などを歴任。外交・安全保障やインテリジェンスを専門とする(photo 写真部・松永卓也)

■北方領土に行けない

 日本のこれらの動きは、ロシアにとっては「もう交渉はやらない」という宣言に見えるでしょう。事実、3月21日にロシアは北方領土問題を含む日本との平和条約交渉中断、ビザなし交流と旧島民の自由訪問停止、共同経済活動からの撤退を表明しました。元島民の方たちが故郷に行けるようにと作った制度の多くが終わりました。ただ、今回の発表では、漁業関係、人道的措置(墓参)が入っていない。ロシアが慎重に行動している点も見えます。もちろん、「ビザなし訪問」はなくなりますから、ロシアの手続きに従った北方領土訪問は「不法占拠を認めることになるので日本人は行くな」という方針が復活します。「日本人だけが北方領土に行けない」時代が再びやってくるでしょう。

手嶋:いま、東アジアにとって最大の懸念は中国です。攻勢を強める中国と対峙するためにも北方領土問題のトゲを抜いて日ロ関係を安定軌道に乗せる必要があった。しかし、プーチンの愚行もあってその機会は潰え、中ロの連携はかえって強まりました。ウクライナの戦いは、東アジアにも及び、日本の安全保障にも大きな影響を与えることになるでしょう。

(構成/編集部・川口穣)

AERA 2022年4月4日号より抜粋

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら