かるがも藤沢クリニックで使われている「うさぎカード」/同クリニック提供
かるがも藤沢クリニックで使われている「うさぎカード」/同クリニック提供

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

■障害児が医療受けづらい

 AERA1月17日号で「障害児たちが医療難民になる」という記事を読みました。日本の医療制度の特徴は「フリーアクセス」(いつでも誰でも平等に、自由に医療サービスが受けられること)であるはずなのに、実際には障害のある子どもたちが受診しにくいという現状がくわしく書かれていました。障害の特性や医療者側の事情など、さまざまな要因があるようです。

 身体が不自由な我が家の子どもたちも、小児科以外にかかる時には苦労した経験があります。湿疹がひどくなり皮膚科を受診しようとした時も、中耳炎の疑いで耳鼻科を受診しようとした時も、「障害のある子どもを診たことがない」という理由で断られ、クリニックからの紹介状を持って大きな病院へ行くことになりました。

 当時は「そんなものなのか」と思い納得しましたが、改めて考えると少し疑問に感じます。

 この記事を読んだ直後に、私が運営するNPO法人に登録して下さっている方数名にヒアリングをしたところ、なんと全員に同じような経験がありました。ご本人の承諾を得て紹介します。スタッフの問題だけではなく、設備に関する悩みもあるようです。

■怖くて躊躇してしまう

「近くの耳鼻科は、ドクターには一定の理解があるのだけれど、靴をぬいで上がるところで車椅子では通いにくい。診察台も抱っこして乗らなければならず、身体が大きくなり難しくなった」

「歯科は怖いし、まひがあるとハードルが上がるよね。以前、前歯をぶつけてかけてしまった時に、痛くなくても機械音で筋緊張が入るから横を向いてしまって…ドクターの理解が大切だなと思った」

 そして、私が最も切実だと感じたのは、20代の脳性まひの女の子が困っていた婦人科でした。生理不順で受診したいと思っても、「内診台に乗れるのか?」という不安や、「障害を理解してもらえなかったら」と考えると、怖くて躊躇(ちゅうちょ)しているとのことでした。

 また、医療ではありませんが、車椅子のまま対応してもらえる美容院が見つけられず、ママが自宅でカットするしかないという声もありました。

 地域の療育センターには、障害児専門の歯科を置いているところが増えています。同じように、障害者のための婦人科や美容室があれば、需要は大きいのではないかと思いました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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