松:そんなふうに思ってもらえていたなんて光栄です。

松尾:役者ってどれほどしっかり準備をしてきても、相手の出方次第でガラッとそれが崩れることがあって。だけど松さんにはそういう不安感がない。一応、普通に準備してきてはいるんですよね?

松:はい、一応(笑)。

松尾:台詞を覚えたり、「ここはこう動こう」とかもきっとあるんでしょうけど、稽古場にきた途端にパッと手放して、ただ生きることに努めてくれている感じがするんです。

松:「自分がこうしたい」とかはどうでもよくて、面白い方、気になる気配の方に行っちゃうんですよ。

松尾:演技をする時のモチベーションって人によって違いますけど、松さんの場合は“おもしろ”なんでしょうね。そこは大人計画の役者たちと近いものを感じます(笑)。

——オリジナルストーリーである本作は、11月1日からスタートした朝ドラ「カムカムエヴリバディ」でも脚本を担当する藤本有紀が書き下ろした。ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』を大胆な形で組み込んだミステリーコメディーだ。松をはじめ、神木隆之介や小日向文世といった実力派俳優が目まぐるしく変わる世界を駆け回る。

松:「なんだこれ!?」が最初に台本を読んだ感想でした(笑)。すごく壮大な話ではあるけど、不思議な軽さが漂っていて。

松尾:今までの「藤本脚本」のドラマにはないファンタジックな要素が満載で。こんなぶっ飛んだこともやるんだと思ってびっくりしました。観念的というか、小説家であるてまりの頭の中のお話ですからね。

松:てまりを演じていると松尾さんがチラつく瞬間があります。松尾さんはてまりのことを「こらえ性のない女」って言ってましたけど、私にもそういうところがあるような気がして(笑)。

松尾:松さんも女優界の中で一人孤島ですからね。

松:ええー!

■三つの孤島が合流した

松尾:松さんっていう島しかない。神木君も小日向さんもそうです。今回の舞台は、海にぷかぷか浮かんでいる三つの孤島が、偶然すっと合わさったような状態ですよ。そんな3人の共通点は、演技に助走がないところ。

松:あはは!

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