■いい人と巡り合えた

姜:最近の傾向として、夫婦とか家族というものをネガティブに考える方が増えているような気がするんです。末利子さんの『硝子戸のうちそと』は、それとは真逆です。いい人と出会えば、夫婦はこんなに素晴らしいんだと思えますね。

半藤:どういう人かなんて、結婚するまではわからないでしょう。私はいい夫に当たりましたの(笑)。亡くなるまでずっと私に対して敬語でしたし、とてもとても大切にしてもらいました。

姜:漱石の妻の鏡子さん(末利子さんの祖母)が生きていらしたら、末利子は本当にいい人に巡り合えてよかったわねというでしょうね。

半藤:でも祖母自身もそう思っていたと思います。あの人は孫の前でも漱石のことを「お父様」としか言わなかった。孫の前でも「おじいちゃま」とは申しませんでした。私は祖母が「お父様」の悪口を言ったのを聞いたことがございません。子どもたちが漱石を怖がっていたというだけで、鏡子本人は「漱石が怖い」とか「漱石が嫌な人だった」とか一度も言ったことはありませんから。

姜:素晴らしいですね。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2021年6月14日号より抜粋