伊藤壮吾さん(写真:本人提供)
伊藤壮吾さん(写真:本人提供)
AERA 2021年1月11日号より(写真:編集部・野村昌二)
AERA 2021年1月11日号より(写真:編集部・野村昌二)

 鉄道ファンのなかでも「妄想鉄」が今、注目されている。脳内で鉄道会社を経営して実在しない線路に実在しない列車を走らせ、時には架空の都市や都道府県まで作ってしまう趣味だ。妄想にもかかわらず、時刻表、ダイヤグラム、全車両の運用表なども作成する奥深い世界を、妄想鉄愛好家でダンス&ボーカルユニット「SUPER★DRAGON」の伊藤壮吾さんが紹介する。AERA 2021年1月11日号から。

【写真】伊藤壮吾さんが妄想した「壮都高速鉄道」の車両と配線図

■東京湾の沖合に「新県」

 「妄想鉄」の魅力について、妄想鉄たちは「好きな鉄道を追い求めたい」と声を揃える。つまり「理想の具現化」だ。

 鉄道ジャーナリストの松本典久さんも言う。

「実物の鉄道が魅力的でなくなったから妄想に走るというのではなく、あくまでも理想の鉄道を追い求める、あるいはそれを表現する楽しみだと思います」

 9人組のダンス&ボーカルユニット「SUPER★DRAGON」のメンバー、伊藤壮吾さん(17)もその一人だ。ファンの間では「鉄オタの壮吾くん」で知られるほどの鉄道好き。乗り鉄、撮り鉄、時刻表鉄、そして妄想鉄でもある。

「これが東京湾の沖合に埋め立ててつくった壮都県(そうとけん)を走る壮都高速鉄道です。壮都空港から都心までを走っています」

 カバンから取り出したのは、「壮都高速鉄道」について書かれた手帳サイズのノート。開くと、壮都高速鉄道の配線図から車両基地、そして時刻表がびっしり手書きで記されている。 

 物心ついた時からの鉄道オタクで、小学校高学年の時にはすでに時刻表を妄想していた。いま高校3年だが、高校1年の時から約1年かけつくったのが壮都高速鉄道だった。 

「僕の理想の鉄道です」

 と話す伊藤さんが列車の中でも特に好きなのは、通勤快速や通勤急行といった通勤列車だ。通勤列車には大勢の人が乗っているが、鉄道をこれだけ多くの人が必要としていると実感できるからだとか。その思いを妄想の中で結実させたという。

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ