■コロナ禍の中輝き増す

 列車は、壮都空港にある地下駅の壮都空港駅を出て空港トンネルを抜けると高架になり、都心の西寺駅まで約20分で走る。朝のラッシュ時は2、3分おきに電車が走り、途中3カ所しか停車しない通勤快速も走るなど、実在する路線の運用に似せている。さらに、駅では10分以上お客を待たせたくないので、列車間隔は10分以上空けないダイヤを組んだ。

 学校の休み時間などで妄想していった。考えている時は苦痛でもあったが、自分が好きな電車を走らせるのに夢中になったと振り返る。

 手書きなのには理由がある。

「紙のデータとして残したいという思いがあります」

 今後は、壮都県に路線網を充実させていきたいと夢を語る。

「西寺駅から山手線のような環状線を敷いて、中央線や常磐線のような幹線を延ばし、ゆくゆくは新幹線のような高速列車も走らせたいと思っています」

コロナ禍の今、奥武(おうぶ)鉄道を創り出した蒲生暁径(がもうぎょうけい)さん(ハンドルネーム)は、妄想鉄道の存在が輝きを増していると話す。

「鉄道に乗りに行くのが困難な中、旅に出たくてうずうずしている人にとって妄想鉄道はその欲求をかなえます。路線図や時刻表を見ていると、美しい山並みや古びた駅舎まで浮かび上がると思います。妄想鉄道で、机上の旅行を楽しんでください」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年1月11日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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