肌に触れず口元を覆うことができる「せんすマスク」。プラスチック製で、アルコール消毒して繰り返し使える。約4千本を販売した(写真:加藤さん提供)
肌に触れず口元を覆うことができる「せんすマスク」。プラスチック製で、アルコール消毒して繰り返し使える。約4千本を販売した(写真:加藤さん提供)
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 マスク着用を求められる状況が続くなか、感覚過敏などの理由で着用が難しい人がいる。AERA 2021年1月11日号は、当事者の苦しみや努力に迫った。

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「どこへ行っても、『マスク着用』のお願いばかりで、病気や生まれつきの体質を責められているような気分になります」

 感覚過敏の特性をもつ埼玉県在住の海里蓮さん(ハンドルネーム、23歳)はコロナ禍の苦悩をこう訴えた。

 感覚過敏とは聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚などが非常に敏感になる状態。感度は人によってばらつきがあり、日常生活に支障をきたす人もいる。

 海里さんは子どもの頃から匂いや味で受け付けない食べ物が多く、こしょうやニンニクなどの匂いで咳き込んでしまうため学校給食がつらかった。給食当番でマスクをしろ、と言われるのも苦痛だったという。

「マスクを着用すると、呼吸が苦しくなったりマスクのにおいで気分が悪くなったりします」

 感染拡大とともに、マスク着用は絶対的なルールのようになっていった。公の場にマスクなしで登場した著名人は非難を浴び、感染を伝えるニュースでは、「感染者はマスクなしで行動していた」などと報じられた。マスクを着用しない人は、「マナーを守れない人」「自分勝手な人」というイメージが広がった。

■ヘルプマークを掲示

 海里さんにとって、外出時に常時マスク着用を強要されるコロナ禍は自死を考えてしまうほどつらい状態だという。それでも周囲に適応しようと、さまざまな代替品を試用した。

「フェイスシールドは視界の曇りに酔ってしまい、すぐに使用を中止しました。マウスシールドはあご当てが痛く、耐えられません。顔に密着しないインカム型のマウスシールドは何とか使用できますが、耳の上を押され続けている感覚で痛み、呼吸を続けるとシールド部分が熱くなって不快に感じるため長時間は着けていられません」

 もともと在宅勤務の海里さんは、コロナ禍に入りしばらくは外出を控えていた。しかし、ずっと家にいると鬱々とし精神的に耐えられなくなった。通院している心療内科医に相談したところ、「マスクは体調にリスクを背負ってまで無理に着けるものではない」とアドバイスを受けた。5月以降は買い物など通常の外出を再開。マスクは着けず、咳エチケットに気をくばる。

 特に緊張を強いられるのは公共交通機関を利用するときだ。マスクを着けていないのを咎められないよう、電車などではヘルプマークを目に付きやすいところに掲示する。ヘルプマークは障害や疾患を抱える人が、外見からわかりにくい場合も援助や配慮を必要とすることを示すカードだ。海里さんはこう訴える。

「マスクを着けたくても着けられない人もいる。『マナーを守れない人』と決めつけて排除するのはやめてほしい」

「どんぐり発達クリニック」(東京都世田谷区)の宮尾益知院長は感覚過敏について「外部からの刺激に対する脳の調整機能がうまく働かないのが原因で生じる発達障害の特性の一つ」と説明する。マスクを着けられない人は触覚過敏や嗅覚過敏のほか、口の周りに息がこもる感覚を嫌うケースもあるという。(編集部・渡辺豪)

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AERA 2021年1月11日号より抜粋