「問題はそれからでした。患者は自分ではベッドから動けない方で、4人部屋でしたがベッドの距離から考えても患者間の飛沫感染は考えづらい。感染した恐れがあるのは、それまでに患者と接触した看護師や医師ら職員数十人と考え、彼らにPCR検査を行い、14日間自宅待機の措置にしたのです」(同)

 適正な対応のはずだった。職員たちは手指消毒を行い、手袋やサージカルマスク、エプロンなど個人防護具をつけて働いていた。患者への感染は考えられないはずだった。

■病棟をまたいで感染

 その後、接触した職員のうち1人の陽性が判明。念のため、その職員が接触した同じ病棟の患者を調べると、1人目の患者の同室とその隣の部屋で、合わせて4人の患者の陽性が判明した。9月6日、病院はクラスターを公表した。最初の患者が出て、2週間近くが経っていた。

 悪夢はそれでは終わらなかった。隣室で陽性が判明した患者のうち1人は、検査前から断続的に発熱していた。発熱することの珍しくない疾患だったため、コロナとは思わなかったのだ。呼吸困難に陥り、気管挿管も行っていた。

「その際、ウイルスを含んだエアロゾルが周辺に飛び散ったと考えられます。作業にあたった職員たちは、N95マスクまでは身に着けていませんでした」

 結局、この病棟では、患者9人、職員15人の計24人が感染した。最初に感染がわかった患者に接触した数十人の職員のうち、感染者はたった1人だったにもかかわらず、だ。

 感染は病棟をまたいで広がっていった。9月15日には二つ目の病棟で、10月7日には三つ目の病棟で、同9日には四つ目の病棟でコロナ陽性者が確認され、計69人が感染した。11月6日の緊急事態措置の解除まで、終息に2カ月を要した。

 東京都が院内感染者のウイルスのゲノムを調べたところ、元はほぼ同じ株と考えられるという。つまり、たった1人の感染者から広がったということだ。

 院内感染の影響は大きかった。一時は救急や予定入院、新規患者も断り、外来は6割に、入院は3割に激減した。

 大友院長は、特に想定外だった要因を指摘する。

「無症状感染は確かに怖い。けれども実は、職員が感染していないにも関わらず、衣服や接触などを介してウイルスが広がった可能性は否定できない」

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