夏樹:ぼくは父・福永武彦と一緒に暮らしたことがないにもかかわらず、二世作家と言われました。書き手の場合、二世議員とは訳が違います。書くことは自分ではい上がるしかない。

──そしていよいよ福永武彦一族のことを小説でお書きになるのですね?

夏樹:武彦の伯父が非常に不思議な人なんです。熱心なクリスチャンで、海軍軍人で天文学者。矛盾するこの三つがなぜ1個の人格の中にありうるのか。親戚から膨大な資料を預かっていますし、書いていきます。

──春菜さんは小説を?

春菜:この夏に出版されるアンソロジーに、私の短編が一つ載ります。私はなにしろ良いものをすごくたくさん読んできているので、今さら私がこの世界に付け加えることなんてあるだろうかと思ってしまいます。でも、やりたい気持ちは強いです。

──『ぜんぶ本の話』の中にある「血ではなくて環境」という言葉が深く刻まれました。つまりどんな親子にも本の歓びを共有するチャンスがある。

春菜:ケストナーに『五月三十五日』という小説があります。コンラート少年の叔父さんは、フィクションの中で一緒に南洋に旅をしてくれます。知らない世界に付き合ってくれる。私にとってパパはこの南洋の叔父。こういう存在は友だちでも先輩でもいい。私も誰かにとっての南洋の叔父になりたいです。

夏樹:一緒に本を出しましたけど、親子であることは強調したくないんです。ぼく自身、熱心に教育したわけではない。本が好きな子は、離れても戻ってきます。その時を愉(たの)しみに待ちましょう。

(構成/ライター・北條一浩)

AERA 2020年7月27日号より抜粋