王位戦第1局に勝利し、会見する藤井聡太七段/2020年7月2日、愛知県豊橋市 (c)朝日新聞社
王位戦第1局に勝利し、会見する藤井聡太七段/2020年7月2日、愛知県豊橋市 (c)朝日新聞社
佐藤天彦(さとう・あまひこ)/1988年、福岡市生まれ。2006年に18歳でプロ四段。15年、王座戦でタイトル初挑戦。16年の名人戦で初タイトルを獲得、17年に初防衛、18年に羽生善治竜王(当時)の挑戦を退け、3連覇を達成した (c)朝日新聞社
佐藤天彦(さとう・あまひこ)/1988年、福岡市生まれ。2006年に18歳でプロ四段。15年、王座戦でタイトル初挑戦。16年の名人戦で初タイトルを獲得、17年に初防衛、18年に羽生善治竜王(当時)の挑戦を退け、3連覇を達成した (c)朝日新聞社

 将棋界ではAIによる研究が全盛時代を迎えている。棋士たちは日々、研究に励んでおりなかなか差がつきにくい状況だ。そんななか、藤井聡太七段はなぜ異次元の強さを誇っているのか。AERA 2020年7月13日号で、対戦経験のある佐藤天彦九段がその差を解説する。

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──佐藤さんも6月2日に棋聖戦決勝トーナメントの準決勝で藤井さんと対局されました。その時の感触は?

 私にとっては、藤井さんとの公式戦での対局は2度目となり、ともに藤井さんの勝利となりました。先日の感触としては、多くのプロ棋士が敬遠するような手でも抵抗感なく考えているなと。すごく深くまで読んでいるんだろうなと感じさせられる局面がいくつもありました。

 これまで藤井さんが積み重ねてきた他の棋士との対局を研究してみると、たとえ意外な手でも、局面が進んでみると藤井さんの勝ちというパターンが、あまりにも多くある。普通、プロは相手のことを簡単に信用したりしないんですが、藤井さんの手だと、「一見、悪手のようで考え抜いた手なのかもしれない」と信用が出てきてしまいます。そうすると、相対するこちらも、つい、自分の読みを信じられなくなって、対応にブレが生まれる場合もあります。

──以前のインタビューで、佐藤さんは「AIの登場により、将棋界の常識が変わってきている」とお話しされていました。

 AIによる研究が全盛時代を迎えています。以前は、定跡をきっちり研究していれば、「あとは地力でなんとかなる」という世界でした。今は、場合によっては「詰み」となる所まで研究されているような形がたくさん出てきた。そうすると、深いところまで対応するために、棋士たちは圧倒的に研究量を増やさなければならない。棋士は研究用に非常に強いソフトを軒並み持っていますから、ソフト研究の軍拡競争みたいなものです。

 悩ましいのは、生活の多くのリソースを投入して研究しまくるんだけど、他の人も研究しているから差がつかないんです。ソフトの手は、微妙な均衡から少しでも外れると奈落の底に落ちるような、危うい均衡の上に成り立っている形がいくつもあって、みんな踏み込んでいっては足をからめとられ、混戦模様に陥る。そうするとみんな、ピリピリした中で研究と実戦とを行き来しているところがあると思うんです。

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