AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より

 ソーシャルディスタンスが求められる中で、居場所を奪われ、追いつめられている人々がいる。緊急事態宣言が明けても、学習した恐怖はなかなか消えない。経済が悪化すれば、失業者が増え、自殺が増えることも予想される。AERA2020年6月1日号から。

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 コロナ禍で多くの人が生活の変化を余儀なくされ、不安やストレスを抱えている。いま、各種の電話相談にはさまざまな悲鳴が寄せられている。

 ひとつの居場所がなくなることが、社会的に弱い立場にいる人に強いストレスを与えている。人形町メンタルクリニック院長の勝久寿医師は言う。

「高齢者、子ども、心身に重い病気を抱えている人たちは、どうしてもデイサービス、学校、病院、自助グループなど『一つの柱』の重要性が高くなり、その他の柱を充実させることが困難になります。柱とは『居場所』でもあるため、そこへのアクセスが断たれると生活のバランスが崩れ、メンタルの不調が表れやすくなるんです」

 生活困窮者を中心に支援活動を行うNPOほっとプラス代表理事で、「生存のためのコロナ対策ネットワーク」共同代表も務める藤田孝典さんも、「集まれないことが何より厄介」という。

「『コロナ禍』の最たるものは、間違いなくソーシャルディスタンスです。集まって経験を語り合ったり、それがストレスを緩和する重要な方法。私たちがケアするうえでいちばん大切にしてきた、いわば武器が奪われたこの状況はつらいですね」

 同ネットワークでは5月2日と3日に、全国30会場ほどで電話相談会を実施。約300件の相談があった。経済的に困窮する人からの相談が多く、見えてきたのは深刻な「うつ」、そして「死」「自殺」というキーワードだ。

 失業中という20代の男性は、友だちと飲んだり集まったりもできず、「失業中の自分の話を聞いてくれる人はどこにいますか? 鬱々としてもう死にたい」と話した。住宅ローンを払えなくなったという30代の男性は、「次にローンを払えなくなると家から追い出されてしまう。どうしたらいいでしょう」と、過呼吸気味の状態で泣きながら電話してきた。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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