「家を失うなら、死んだ方がまし。そんなことを口にされる方は増えてきています」(藤田さん)

 今後、不安やストレスによるメンタル不調から、うつ病など深刻な精神疾患へと移行する可能性を指摘するのは、前出の勝医師だ。その理由として、今後、感染症によって「私たちの行動が変容していくこと」を挙げる。新型コロナウイルス自体は目に見えず、人間が媒介するため、結果的に私たちの中に人間への恐怖が生まれる。その恐怖は強力に学習され、「コロナ後も簡単には消えることがない」。

「個人や大切な人の健康を優先する気持ちから、しばらくは大勢で楽しく過ごすことも難しいでしょう。よく知っている人でも何らかの警戒心が生じ、ましてや新しい親密な関係を築くことは困難になる」(勝医師)

 居場所を取り戻すことや新しい居場所をつくることも、すぐには難しくなる。

 だが、ポジティブな感情は、人間関係においてこそ生まれるもの。「3密」のうち「密集」「密接」は本来、大切なものだ。

「居場所を確保する機会を失うことは、ストレス耐性を低下させ、メンタルヘルスを脆弱にします。適応障害、不安障害、うつ病、依存症などを発症する危険性を高める可能性がある」(同)

 今後の最大の懸念は、経済の悪化により失業者の増加が確実視されることだ。

「失業は職場という重要な居場所を失うばかりでなく、経済的問題から家族、友人関係、趣味などの居場所にも、大きな影響を与えます。結果として、社会的立場や役割などのアイデンティティーに強い衝撃を与え、大きな喪失体験となり、うつ病や自殺につながる恐れがある」(同)

 今後の自殺についての研究もある。京都大学レジリエンス実践ユニットは、失業率と自殺者増の相関関係に基づき、今後の自殺者数を推計したシミュレーションを発表した。コロナ収束を1年後と仮定する「楽観シナリオ」でも年間自殺者数は3万人を超え、2019年の水準に戻るまで19年かかり、その間の累計自殺者は14万人増加する。収束まで2年の「悲観シナリオ」では、19年の水準に戻るまで27年間、累計自殺者は27万人増という計算だ。

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