来日公演が中止になったボブ・ディラン。ノーベル文学賞受賞歌手は、自称「ソング&ダンス・マン」。その魅力はどこに?/ウドー音楽事務所提供
来日公演が中止になったボブ・ディラン。ノーベル文学賞受賞歌手は、自称「ソング&ダンス・マン」。その魅力はどこに?/ウドー音楽事務所提供
2016年にノーベル文学賞を受賞した際に贈られたメダルと賞状。授賞式には出席しなかったが、メッセージを発表した (c)朝日新聞社
2016年にノーベル文学賞を受賞した際に贈られたメダルと賞状。授賞式には出席しなかったが、メッセージを発表した (c)朝日新聞社
2018年の「フジロック」にはディランが初出演。ノーベル文学賞受賞後の国内初ステージに多くのファンが訪れた。「風に吹かれて」などを歌った (c)朝日新聞社
2018年の「フジロック」にはディランが初出演。ノーベル文学賞受賞後の国内初ステージに多くのファンが訪れた。「風に吹かれて」などを歌った (c)朝日新聞社

 数々のライブ公演が中止になっている。ボブ・ディランの公演もしかり。全国に気を落としているディランファンは多いだろう。だから、誌面だけでもディラン愛を叫びたい。AERA 2020年4月6日号掲載の記事を紹介する。

【写真】2016年にノーベル文学賞を受賞した際に贈られたメダルと賞状

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「中止はやむを得ないでしょうね。それにしても、振替公演は実現するんですかね……」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、ウドー音楽事務所(東京)が、ボブ・ディランのライブ公演中止を発表したのは3月13日。編集部で気を落としていた筆者(44)のもとに、SNSでメッセージが届いた。送り主は中東に単身赴任中の同業の男性(37)で、10年来の“ディラン友達”だ。

 両親の影響で中学生のころから聴き始めた埼玉県の会社員男性(29)にとっては、初めての“生ディラン”になるはずだった。

「ラストツアーという噂もあったので楽しみにしていたのですが……」

 来日公演は4月に東京と大阪で計15回の予定だった。身近にディランを感じることができるライブハウスが中心だったのも魅力で、筆者は東京での2公演に妻と行く予定だった。次はいつ行けるのか。本当にあるのか。筆者も気になって仕方ないところに、冒頭のディラン友達に嫌な指摘をされた訳だ。

 と、イライラしても仕方ない。記事を書かなければ。

「公演があってもなくなっても、記事は書きます」

 自らそう宣言したものの、一方で後悔もしていた。理解が足りない。専門家の目も怖い。だがしかし、恥をしのんで書くしかない。

 筆者のディラン歴は高校生のときに始まる。多くの人がそうであるように、「Blonde on Blonde」(1966年)までの最初のアルバム7作に熱狂した。ビートルズとはまったく異質なただならぬ様子に圧倒されたし、ディランの髪形や声、服装も好きだった。

 趣味でギターを弾いていたので、「Mr. Tambourine Man」や「When the Ship Comes in」など、1人で演奏できる曲なら練習したし、歌詞も覚えた。なのに、歌詞への理解は残念ながら、ない。長年聴いていたのに、2016年にノーベル文学賞を受賞したとき、自分の言葉で周囲に説明できる言葉を一つも持っていなかった。

 あらためて誰かにディランを教えてほしい。訪ねたのは、日本女子大学文学部の馬場聡准教授(44)。まず、受賞の背景について説明してもらった。

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