フォノンの第一弾のリリースは18年1月。短波放送などを聴くためのBCLラジオを用いて音を出す女性アーティストA.Mizukiのユニット「Radio ensembles Aiida(レディオ・アンサンブル・アイーダ)」と、佐藤薫と家口成樹によるユニットである「EP-4[fn.ψ]」。いずれも音楽的なジャンルでは、ノイズ、エレクトリック、インダストリアル……といった言葉で紹介されるような作品だ。その後も作品のリリースを重ねていき、今年2月発売の最新タイトルまで合わせて15作品にものぼる。そのチョイスにブレは一切ない。アイドル・グループ「BiS」の元メンバーながらエレクトロ・ノイズ・アーティストとして活躍するテンテンコ、ドイツ出身のトランペット奏者のアクセル・ドナー、あるいは70歳を超えるソプラノ女性歌手のMadam Anonimo(マダム・アノニモ)まで、顔ぶれは恐ろしく多彩だ。


 
「僕自身は特にアーティストの発掘や育成といった業務はしていないので(笑)、多くは誰かの偶発的な提案やライブの観覧から触発があり、それに個人的な直感で呼応するというところです。まあ、機会さえあれば軽く声がけしたりね……。ただ、とにかくそういうチェック作業はガツガツしないことにしている。リリースしたアーティストから、フォノンの活動形態に興味をもち、ディレクションを手伝ってくれる人が現れたり、セルフ・オーガナイズされたDIYが形成されているように感じています。それに作品やアーティストがそろってくるとプロポーザルもあるわけで、それはそれで楽しい作業になっていますね」
 
 実際、18年に単独作品をリリースしたDJ、クリエイターの森田潤は、今やフォノンの重要メンバーの一人。森田が監修した、モジュラー・シンセのコンピレーション・アルバム「Mutually Exclusive Music」もこれまでに2種類発表されている。また、蛍光灯を使用した自作音具「オプトロン」を用いたパフォーマンスが人気の伊東篤宏は、フォノンでの単独作品こそまだないが、関連のイベント企画などで尽力している。この森田と伊東は佐藤より年若だが、現在の彼の活動になくてはならない頼もしい同志だ。
 
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佐藤が必要だと思っている感性は