「エンタメに特段の興味はないんです。時間の許す限りアンテナは張っておくつもりですが、バランス感覚としては、『後ろ向きな感性』も重要だと思っています。自分の音楽少年期、興味をもっていたのに出会えなかった音を中心に、まったり掘り下げています。今後は、これまでリリースしてきたアーティストのフォローアップ作業も重要だし、フォノンから出していくかどうかは別として、継続的に作品を発表していけるアーティストにはレーベルとの関わりも続けてほしい。出会った途端に出来上がってしまったような、マダム・アノニモのような作品にもおおいに興味があります」


 
 次のリリースは京都在住のアーティスト、山本精一の新作になる予定。自らのリーダー・バンドでも定期的にライブをする一方、ROVOの一員としても活躍する山本は、佐藤のEP-4のライブでサポートしたこともある。エンタメに特別興味がないという佐藤が、それでも音楽作品をリリースし続けることで一体何を表現しようとしているのか。その答えは、一切の留保なしに先鋭であろうとするフォノンの活動の中にあるということなのだろう。
 
 この10年、過去作品の再発表なども合わせ、緩やかに活動にギアを入れてきた佐藤。メディアにほとんど登場しないため謎めいているが、その活動は80年代当時と変わらず確信犯的だ。しかしそうなると気になるのが、佐藤の本丸であるEP-4の次なるアクション。オリジナル・メンバーでフランス文学者の鈴木創士、パーカション奏者のユン・ツボタジら、現存するメンバーが中心となった新作にも期待が募るが、「メンバーそれぞれ別働隊はそれぞれのやり方で活動している。EP-4本隊については……イベントという形態で一応の継続を維持できれば」と含みをもたせた。
 
 昭和、平成を経て、令和となった混沌の現世にこそ、佐藤のようなアウトロー的な表現者が必要ではないだろうか。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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