BZ系薬剤などによる薬剤起因性老年症候群の被害は、どれほど広がっているのか。

 兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田陽彦・認知症疾患医療センター長は「認知症の疑いでやってくる患者の1~2割は、薬剤によるというのが実感だ」と話す。関東の特別養護老人ホームの看護師も、病棟の3割ほどと証言する。

 厚労省が推計した20年の認知症患者数は602万~631万人だ。その1割が薬剤によるとすると60万人、2割だと120万人。これは大雑把な推計に過ぎないが、決して過小評価ではないというのが私たちの実感だ。

 厚労省は18年5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針」(総論編)で、「薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤」の一覧表を公表し、認知機能低下の危険性などを明記した。だが、BZ系薬剤の安全性に関する基本情報を記載する添付文書には、これらの副作用は記されていない。

「きちんと記載すべきでは」

そんな質問に、医薬安全対策課の花谷忠昭課長補佐は言う。

「より質の高いエビデンスがなければ、なかなか添付文書には書けないんです」

 この間にも、高齢者の尊厳が奪われている。(医薬経済社・坂口直、ノンフィクション作家・辰濃哲郎)

AERA 2020年2月3日号より抜粋