AERA 2020年2月3日号より
AERA 2020年2月3日号より
AERA 2020年2月3日号より
AERA 2020年2月3日号より

 代謝が悪く排泄能力が衰えた高齢者が睡眠薬や抗不安薬を服用すると、認知機能の低下や歩行がおぼつかなくなるといった副作用が出る危険性が高い。こうした症例は「薬剤起因性老年症候群」といい、海外では問題視されてきたが、日本では長らく放置されてきた。AERA2020年2月3日号は、その実情と背景を探る。

【国内でよく使われているベンゾジアゼピン(BZ)系の睡眠薬・抗不安薬はこちら】

※前編「睡眠薬・抗不安薬、高齢者が『廃人』になるリスクも…医者が処方する裏事情」より続く

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 日本の睡眠薬・抗不安薬のほとんどを占めるベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤の危険性を初めて指摘したのは日本老年医学会だ。05年に作成した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」で、BZ系薬剤を含む「特に慎重な投与を要する薬物リスト」を公表して、主に75歳以上を対象に注意を促している。15年の改訂版では、「使用するべきではない」と、さらに踏み込んだ。

 ところが、ガイドラインを作成した東京大学大学院医学系研究科老年病学の秋下雅弘教授は、「医師は所属している学会以外のガイドラインは、あまり読まない」と嘆く。

 日本老年医学会がガイドラインとその改訂版を公表したのが05年と15年。その間に消費されたBZ系薬剤の薬剤料の推移をみるとわかりやすい。

 厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」で「催眠鎮静剤・抗不安剤」の1カ月間の薬剤料を75歳以上に限って集計すると、03年は約16億円。10年後の13年には25億円を突破し、18年は約19億円だ。先発品の単価は、薬価改定で3割前後引き下げられているから、使用量はあまり変わっていない。ガイドラインの警告が生かされていないようだ。

 海外ではどうか。国連の国際麻薬統制委員会の報告書がある。各国のBZ系薬剤を含む睡眠薬の人口当たりの消費量をまとめた統計で、15年の日本の消費量は67.87ミリグラムで第1位。その後、イスラエルなどの消費量が急増したため18年には5位になった。ただ、日本の消費量は高い水準で推移。18年は米国の倍以上、英国の約20倍に上る。

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