同院では年間約150件のハイリスクな新生児や妊婦を受け入れている。現在は救急車や医療用タクシーなどで運ばれてくるが、車内で行える医療行為は限られ、急変などに十分対応できない場合があるという。ネットでこうした現状を訴えたところ、2カ月弱で目標額を上回る3600万円超が集まった。

 ほかにもクラウドファンディングを利用した例はある。国立成育医療研究センターは、免疫が低下した状態の子どもを守る「無菌室」やドクターカーの導入費用を、大阪府立病院機構大阪母子医療センターは、保育器の購入資金を呼びかけ、いずれも目標額を超す金額を集めた。

 医療機関や小児医療を支える団体などに、残した財産を寄付する「遺贈」を行う人も増えている。また、神奈川県立こども医療センターは昨年のクリスマス前に、欲しいものをリスト化した「ウィッシュリスト」をネットで公開。品物をクリックするとそのまま購入できる手軽な方法に多くの人が参加し、NICUでクリスマスを過ごす赤ちゃんに着せるためのサンタクロースの衣装や、小さく生まれた赤ちゃん用の肌着などたくさんのプレゼントが届いた。「子どもがいない自分がサンタになれる喜びがありました」というメッセージも届けられた。同センターでは今年もウィッシュリストを作成するという。

 国立や県立の医療施設が、小児医療に必要な備品を病院の予算でなく民間からの寄付に頼るのはなぜなのか。

 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学教授の高橋義行さん(52)は言う。

「病院の限られた予算では、老朽機器の更新などが優先され、代替手段がある場合は先送りされて購入のチャンスがなかなか回ってきません。また、検査機器の装飾のような、治療を受ける子どもたちの精神的負担を和らげる付加価値的な費用は、病院の診療業績に直接つながるわけではなく、病院の予算でまかなうのは難しいのが実情です」

 国からの助成金などは使い道が限られ、細やかなニーズに対応しにくい面もある。

 名大病院では集まった寄付を活用し、まずCT室を「森と動物」、PET室を「海と魚」のデザインに装飾した。これまでの検査室は無機質で閉鎖的な空間に、白く巨大な機械が置かれただけ。入室するときに泣いたり後ずさりしたりする子もいたが、今はドアを開けた瞬間、わっと笑顔が広がるという。(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年12月16日号より抜粋