高校生活を締めくくる修学旅行が高額化している。海外に行った場合、1人あたりの平均額は公立校が約14万円、私立校で約25万円。経済的な事情で参加できない生徒も少なくない。AERA 2019年12月2日号から。
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大分県の会社員男性(46)の長男(16)は、県立高校の1年生だ。今年6月、長男が持ち帰ったアンケートを見て、男性は言葉を失った。修学旅行の行き先の希望をとるものだった。
「オーストラリアとベトナムが候補で、値段にびっくりでした。どちらに行っても、20年前に妻とマレーシアに行った2人分の新婚旅行代と同じくらいです」
オーストラリアは23万円、ベトナムは18万円、国内を含めて希望地を申請できる「その他」を入れて3択だった。オーストラリアとベトナムが拮抗したため、後日、あらためて2択のアンケートがあり、8月になってベトナムに決まった。
高校は地元では名の知れた進学校で、最近は修学旅行で海外に行くことを特色の一つにしている。
男性は6月以降、3度にわたり学校側と話し合いの場を持ち、「10万円程度の行き先を選択肢に入れてほしい」と訴えたが、聞き入れられることはなかった。男性は、長男を旅行に参加させられない場合、高校で自習させることまで想定した。
「家庭の経済状況を伝えることは恥ずかしいと感じましたが、今後の家計を考えると余裕があるとも思えないので、意見せざるを得ませんでした」
結局、長男を旅行に参加させるため、月々の積み立てを始めた。だが、心のモヤモヤは晴れない。この金額でなければだめなのか、ほかに悩む保護者はいなかったのか。
修学旅行の高額化が進んでいる。全国修学旅行研究協会(東京)は毎年、主に全国の自治体を通じて高校の海外修学旅行の状況調査を行っている。2017年度は、公立私立合わせ全国で895校が実施、15万6千人以上の高校生が海外修学旅行に出た。1人あたりの平均額は公立校で14万3872円、私立校で25万4414円。高額なケースでは、公立でアメリカ38万7千円、オーストラリア31万4090円、私立でハワイ120万円、イギリスやイタリアで69万8千円という例もある。
一方、子どもの貧困率は13.9%(15年)で7人に1人が貧困状態にあり、ひとり親世帯の貧困率は50.8%に上る。経済的な事情で修学旅行に参加できないケースは決して少なくない。
中学卒業後、大阪府の定時制高校に進学した飲食店従業員の女性(23)も、修学旅行に参加できなかった一人だ。3人きょうだいの末っ子。母子家庭で、母親は病気がち。生活保護でなんとか生活が成り立っていた。修学旅行の行き先は北海道で7万円ほど。月々数千円の積立金は、払えたり払えなかったりだったから、母親はなんとか行かせようとしていたはずだ。