「行きたい気持ちはありましたが、母はしんどいやろなと思って、私から『もういいよ』と言いました。無理して払っても、旅先で遊ぶお金のことも考えると私も気持ちがしんどかったので、行かないことにしました」

 日本修学旅行協会(東京)も毎年、修学旅行に関する抽出調査を実施している。17年度の高校の調査では、全国の国公私立から3048校にアンケートし、1078校が回答。うち、修学旅行を実施していたのは1042校で、国内が917校、海外は125校。実施しない高校も36校あった。

 国内で修学旅行を行った高校917校のうち、77.3%にあたる709校に不参加の生徒がいた。内訳は、健康上の理由が24.1%、部活や試合への参加は21.7%、経済的な事情は20.4%に上った。

 経済格差が、修学旅行の行き先に表れる例もある。神奈川県立高校の男性教諭(60)は、かつて勤務していた高校で、参加できない生徒が毎年数人はいたのを記憶している。いくつかの行き先から生徒が選んで旅行するスタイルで、ある年の行き先はグアムと沖縄、群馬県の水上温泉。群馬県は、家庭に経済的な事情のある生徒に配慮した行き先だった。旅費は5万円足らずだ。

 それでも、母子家庭のある女子生徒は母親が旅費を支払えずに参加できなかった。教諭は旅行の1カ月前まで母親と連絡を取り、参加への道を探った。自分が立て替える提案をしようとしたが、校長に止められた。返ってこなかった場合に誰も責任をとることができない、というのが理由だ。

「旅行中、彼女はずっと学校で自習でした。しばらくしょんぼりした様子が続きました」

(編集部・小田健司)

AERA 2019年12月2日号より抜粋