15年秋、プロジェクトは完了。野村さんは、その時点で決断した。いったん、全てを投げ捨ててもいい。今度こそ、ちゃんと休もう──。

「生涯現役でありたいという願いも強く、なんだ、長い人生のたった数年のことじゃないかと」

 野村さんの回復への鍵は、「食習慣」だった。まずは、「ご飯はよく噛む」ことから始めた。1食だけメニューを変えてみる、具材をスーパーで買ってくる、と工夫。すると、去年の夏前、「大好きだったみそ汁を飲みたい!」という感覚がよみがえってきた。なめこのみそ汁を作って飲んだら、「格別にうまかった」。今では、ヨーグルトメーカーで発芽させた玄米を毎食炊いて食べているという。

 回復期の人が仕事復帰に向けて焦らないために大事なことは、「うつはいつか抜けていく」というイメージを持つこと。と同時に、「いついつまでに治らないと」というノルマを自分に課さないことだと野村さんは言う。先月から徐々に仕事を再開したところだ。時に、気分がへこむ。でも、もう焦りは消えた。

「またうつになったって、うまく付き合って、少し休めばいい。今はそのぐらいの気持ちです」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2019年10月14日号より抜粋