「どうしたら左足がちゃんと氷にハマって踏み込めるだろうと考えました。あまり巻き込まない跳び方をイメージして、本番に向けて集中しました」

 頭の中で、跳び方のイメージを何度も繰り返すうち、重心の位置を「後ろ重心よりも、前重心に乗せることを意識すればいい」と解決策に思い当たった。

 頭のフル回転は、それだけではなかった。本番のとき、体が十分に温まった状態でないと冒頭のトリプルアクセルで体が動かない経験を思い出していた。

「ジャンプのことを考えながらも、ジョギングや回転練習をして、体を温めました」

 迎えた本番。冒頭から2本のトリプルアクセルを、軸が斜めになりながらも着氷した。

「思った高さまで上がらなかったけど、最近は力がついてきたので着氷できました」

 紀平がいう「力」とは、オフシーズンのトレーニングのことだ。ピラティスや筋トレなどで体幹を鍛えた。そのため、踏み切りが少しズレていても回転しきる、また回転軸が斜めでも着氷で耐える、といった力がつき、トリプルアクセルの成功率が上がったのだ。

 次戦は4回転が期待される。

「他のジャンプをもっと安定させられたら、4回転を入れようと確実に思える。本気で4回転をやるつもりで練習します」

(ライター・野口美恵)

AERA 2019年9月30日号