取材当日もトミー・ジョン手術が行われていた。「小学生レベルでも通年で試合をするので体を休められない」(古島医師)(写真:慶友整形外科病院)
取材当日もトミー・ジョン手術が行われていた。「小学生レベルでも通年で試合をするので体を休められない」(古島医師)(写真:慶友整形外科病院)
トミー・ジョン手術の内訳(AERA 2019年9月9日号より)
トミー・ジョン手術の内訳(AERA 2019年9月9日号より)

 ファンや現役選手、OBが入り乱れて意見を飛ばし合っている「球数制限」問題。最近では中高生の段階でひじにメスを入れるケースも増えている。

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 好投手、奥川恭伸を擁する星稜(石川県)を打ち崩した履正社(大阪府)が優勝し、夏の甲子園も終わった。しかし、163キロ右腕の大船渡・佐々木朗希が岩手県大会決勝の登板回避をしたことで、球数制限やひじや肩の故障についての話題はいまだ冷めやらない。

 大谷翔平(エンゼルス)やダルビッシュ有(カブス)も受けたひじの内側側副靱帯再建手術は、1974年に当時の大リーグ投手、トミー・ジョンが受けて復活を遂げたことから急速に浸透し、以降は「トミー・ジョン手術」の通称で知られるようになった。この手術を日本で最も多く行っているのが、慶友整形外科病院(群馬県館林市)スポーツ医学センター長の古島弘三(ふるしま・こうぞう)医師(49)だ。これまで600以上の同手術を手がけてきた古島医師は、若年層の深刻な故障の増加の理由をこう考察する。

「勝たんがために投げさせすぎてしまう日本の野球の問題です。私が視察した海外の少年野球の指導者は『私の役目は子どもたちを守ること。けがをしないように目を配り、彼らを故障なく次のステージに送り出すこと』と口をそろえていました」

 翻って日本では、小中学生ですら負ければ終わりのトーナメントを勝ち抜くために、体の大きなエースに頼って連投させ、必然的に故障を招くケースが後を絶たない。古島医師は小学生にトミー・ジョン手術を過去に1例だけ行っている。

「その子は小学生にして身長170センチを優に超え、周囲の子と比べて頭一つ以上大きかった。体格差で圧倒して毎試合勝つものの、身体自体はまだ子ども。野球を続けるためには手術を回避できないほどひじの故障が悪化してしまったのです」

 過去5年間にトミー・ジョン手術を受けた患者の約半数を占めるのが、中高生だ。小学生時代からの投げすぎでひじの靱帯の微小損傷を繰り返してきたケースがほとんどとみられる。では、こうした障害から子どもたちを守るために最も大事なことは何か。

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